下院議員がWikipediaの「反イスラエル」的な記事を調査する名目で編集者の名前を公表するよう圧力、ヘリテージ財団が推進する反ユダヤ主義抑圧戦術の一環

アメリカ合衆国下院の共和党議員2人が、イスラエルを否定的に描写するWikipediaの記事を書いた編集者の身元を明らかにするべく調査を進めています。
House Republicans Investigate Wikipedia for Alleged “Anti-Israel” Bias | Truthout
https://truthout.org/articles/house-republicans-investigate-wikipedia-for-alleged-anti-israel-bias/
2025年9月3日、下院監視委員会で委員長を務めるジェームズ・コマー議員とサイバーセキュリティ・情報技術・政府イノベーション小委員会で委員長を務めるナンシー・メイス議員が、Wikipediaを運営する非営利団体のウィキメディア財団に書簡を送りました。
書簡はウィキメディア財団のマリアナ・イスカンダーCEOに対し、「Wikipediaのボランティア編集者として活動する人物(あるいは特定アカウント)が、Wikipediaのプラットフォーム規約に違反した事例に関する文書や通信記録、また重要かつ敏感なテーマに意図的・組織的に偏向を持ち込もうとする行為を阻止するための取り組み」について支援を求めるものです。また、書簡では「国家的主体」や「学術機関」がWikipediaの規約に違反する可能性があるコンテンツの編集や影響工作に関与しているかについての情報も要求されました。
これに対して、ウィキメディア財団の広報担当者はThe Hillに対して「委員会からの質問に回答し、我々のプラットフォームにおける情報の信頼性を守る重要性について議論できることを歓迎します」と回答し、要請について検討していると説明しています。

共和党の調査は、かねてよりWikipediaを「反保守的な偏向」や「イスラエルを否定的に描写している」と非難してきた極右系シンクタンクのヘリテージ財団の目的と一致していると海外メディアのTruthoutは指摘しました。ヘリテージ財団はWikipediaの編集者の身元を暴くことを目指し、さまざまな活動を行っています。
コマー議員とメイス議員が送った書簡では、ウィキメディア財団に対してWikipediaの編集者間の紛争を解決する「仲裁委員会」となった編集者に関する「アカウントの識別情報(名前、IPアドレス、登録日、活動ログなど)」の提出を求めました。これに対して、Truthoutは「実質的には、議会がWikipediaに対して編集者を『晒す』よう要求しているようなものだ」と指摘しています。
これに対して、テクノロジーメディアのライターであり、Wikipediaの専門家でもあるというスティーブン・ハリソン氏は、2025年2月に「Wikipediaの編集文化においては、プライバシー保護や個人的脅迫を回避するために匿名を使うのが一般的です。本人の同意なく個人情報を公開する行為は嫌がらせの一種であり、永久追放の対象になり得ます」と言及しました。
議員らの主な関心は、「Wikipediaにおけるイスラエルに関連するコンテンツの扱い」です。書簡では親イスラエル系ロビー団体の「名誉毀損防止同盟(ADL)」の報告を引用し、「反ユダヤ主義的かつ反イスラエル的な情報をWikipediaに組織的に持ち込む試み」に懸念を示しています。
ADLの報告では、正体不明の30人の「悪意ある」編集者が協力してイスラエル・パレスチナ紛争に関する記事を編集し、「イスラエルへの批判を強調し、パレスチナ側のテロ行為や反ユダヤ主義を過小評価」することで中立性を損なったと主張されています。
しかしこの報告は強い批判を受けており、引用された学者の一部も異議を唱えています。ホロコーストに関するWikipediaの記述を研究するシラ・クライン氏は、自身や他の学者の研究が「イスラエルに関する公共の言論統制を強化する目的で不正確に利用された」と述べました。クライン氏はADLの報告を「極めて歪んでいる」と評しており、その前提が「イスラエルやシオニズムへの批判は本質的に反ユダヤ主義であるという誤った考えに依存しているため」と指摘しています。
また、クライン氏は「不正を立証するには、Wikipediaの記事が学術的コンセンサスと明らかに異なる主張を事実として繰り返し掲載しているという証拠を示す必要があります。しかし、その証拠は存在しません。ADLはただ『我々の言葉を信じろ』と言うだけです」と述べ、ADLの主張には証拠がないと指摘しました。

そもそも、Wikipediaの独立性を弱体化させ、その編集者のプライバシーを攻撃しようとする右派の動きは前々から存在しているとTruthoutは説明しています。
2025年1月にThe Forwardのアルノ・ローゼンフェルド氏が入手した文書によると、ヘリテージ財団は秘密裏に「Wikipedia編集者を特定・標的化する計画」を立てていたそうです。ヘリテージ財団は職員に対し「データ侵害分析、フィンガープリンティング、技術的ターゲティングなどを通じてテキストパターン、ユーザー名および技術データを分析すること」を指示しています。さらに「偽のWikipediaアカウントを作成して、編集者に個人情報を提供させたり、トラッキング用の不正リンクを踏ませたりすることで身元を割り出す」といった手口も提案されていたそうです。
ローゼンフェルド氏によると、ヘリテージ財団はWikipedia編集者を狙った計画に関する資料を、ユダヤ系財団や反ユダヤ主義行為を抑圧するためのプロジェクトであるProject Estherの支援候補者に送っていたと報じられています。なお、反シオニストおよび左翼の擁護団体であるJewish Voice for Peaceは、Project Estherを「反ユダヤ主義対策を口実に、連邦政府や民間機関を利用してパレスチナ連帯運動やアメリカ市民社会を解体するためのヘリテージ財団の設計図」と評しました。
ハリソン氏は「たとえWikipediaにおけるイスラエル・パレスチナ紛争の扱い方に異論があったとしても、ヘリテージ財団の計画は正当化できるものではありません。編集内容を議論するのではなく、編集者個人を標的にすることは明らかに危険なエスカレーションです」と述べ、ヘリテージ財団の取り組みを批判しています。
トランプ政権下ではパレスチナ支持発言を理由に移民を追放するなどの動きが進められているため、批評家は今回の下院共和党議員による書簡を「イスラエルに関する批判や不都合な情報の拡散を検閲する最新の試み」と指摘しました。
政治ポッドキャスト・Citations Neededの共同ホストであるアダム・ジョンソン氏は、X上で「共和党議員がADLや大西洋評議会と連携し、WikipediaをイスラエルとNATOの主張に従わせようとしている」と指摘。ジョンソン氏は民主党支持者の圧倒的多数を含む多くのアメリカ人がイスラエル支援に反対し、イスラエルが大量虐殺を行っていると考えている状況で、このような動きが起きていると指摘しました。
House republicans working with the ADL and Atlantic Council to discipline Wikipedia into parroting the Israeli and NATO line. You know, to fight “hate” and “disinformation” or whatever https://t.co/z8tkgKeNIy
— Adam Johnson (@adamjohnsonCHI) August 28, 2025
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in メモ, Posted by logu_ii
You can read the machine translated English article Congressman pressures Wikipedia editors ….