サイエンス

速い呼吸法と音楽を組み合わせることで幻覚剤が引き起こす変性意識状態(ASC)に似た体験ができる


意識的に呼吸をコントロールして感情や体に働きかけるブレスワーク(呼吸法)は、薬物を使わない心理的苦痛の治療ツールとして人気が高まっています。新たな研究で、音楽を聴きながら呼吸法を実践することによって脳の血流が変化し、幻覚剤が誘発する変性意識状態(ASC)に似た状態を引き起こす可能性があることが示されました。

Neurobiological substrates of altered states of consciousness induced by high ventilation breathwork accompanied by music | PLOS One
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0329411


Breathwork can induce altered states of consciousness linked with changes in brain blood flow | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1095485

呼吸法の中でも呼吸の速度や深度が高いHigh ventilation breathwork(HVB:高換気ブレスワーク)は、刺激的な音楽を聴きながら実践することによって、主観的な体験の異常な変化である変性意識状態を引き起こすとされています。しかし、高換気ブレスワークによって引き起こされる変性意識状態の根底にある神経生物学的メカニズムや主観的体験については、これまでよくわかっていませんでした。

そこで、ブライトン・アンド・サセックス・メディカル・スクールの臨床神経科学部で研究助手を務めるエイミー・カーター氏らの研究チームは、経験豊富な高換気ブレスワークの実践者を対象にした実験を行いました。

実験は「オンラインでカメラを通して高換気ブレスワークの実践を観察するセッション」「MRIスキャンを受けながら高換気ブレスワークを実践するセッション」「実験室で心拍数や呼吸を測定しつつ高換気ブレスワークを実践するセッション」の3回に分けて行われました。オンラインセッションには15人、MRIセッションには19人、実験室セッションには8人の被験者が参加したとのこと。

被験者はすべてのセッションで、音楽を聴きながら20~30分間の高換気ブレスワークを行いました。被験者は高換気ブレスワークの終了から30分以内に、セッション中の体験について振り返る一連の質問票に回答し、MRIセッションではセッション中の脳画像が撮影されました。


実験の結果、高換気ブレスワークによって誘発された変性意識状態の強度が、心血管の交感神経系の活性化に比例しており、潜在的なストレス反応を示唆していたことがわかりました。また、変性意識状態は、呼吸を含む身体内部の表象に関与している弁蓋部および後部島皮質への血流の著しい減少と関連していました。

高換気ブレスワークは脳全体に大幅な血流の減少を引き起こしましたが、セッション中には感情的記憶の処理に関与する右側扁桃体前部海馬への血流が次第に増加していきました。これらの血流変化はサイケデリックな体験と相関していることが示されており、高換気ブレスワークがもたらす効果の基盤になっている可能性があるとのことです。

すべてのセッションにおいて被験者は恐怖とネガティブな感情の軽減を報告しており、パニック発作などの有害事象は報告されませんでした。また、被験者は実験環境にかかわらず、高換気ブレスワークによってOceanic Boundlessness(大洋的な感情)を主体とする変性意識状態を増強しました。

大洋的な感情とは霊的体験や洞察力の向上、至福の状態、ポジティブな離人感、一体感といった一連の感情を指す心理学用語です。大洋的な感情は、マジックマッシュルームに含まれるシロシビンなどの幻覚剤がもたらす変性意識状態の特徴的な側面だと考えられています。


研究チームは論文で、「本研究は呼吸法中に生じる神経生理学的変化を、神経画像法を用いて初めてマッピングしたものです。主な発見として、呼吸法は確実に深いサイケデリック状態を誘発できることが挙げられます。これらの状態は自己認識や恐怖、感情記憶処理に関わる特定の脳領域の機能変化と関連しているものと思われます。特定の脳領域における血流のより深い変化が、一体感・至福感・感情の解放といった集合的に『大洋的な感情』と呼ばれる深い感覚と関連していることを確認しました」と述べています。

カーター氏は、「この研究を行うことは素晴らしい経験であり、こうした新しい分野を探求できたことは刺激的でした。多くの人が経験的に呼吸法の健康効果を認識している一方、この速いペースの呼吸法は科学的な注目をほとんど受けてきませんでした。この研究を可能にしてくれた参加者の皆様に深く感謝します」とコメントしました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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