もし世界中の人々が同時に電気をつけたら何が起こるのか?

1879年にトーマス・エジソンが実用的な白熱電球を発明してから、人類の生活を照らす明かりは火から電気に変わりました。もし世界中の人が一斉に照明を点灯させるとどういうことが起こるのかについて、スミソニアン協会国立アメリカ歴史博物館の学芸員で、電気コレクションを担当するハロルド・ウォレス氏が解説しています。
If everyone in the world turned on the lights at the same time, what would happen?
https://theconversation.com/if-everyone-in-the-world-turned-on-the-lights-at-the-same-time-what-would-happen-256175
世界中の人々が一斉に照明を点灯させた場合、まず予想されるのが電力需要の急激な増加です。
電力は、石油や天然ガスの火力、原子力、水力、風力、太陽光など多様な燃料を利用する発電所で生み出され、「パワーグリッド」と呼ばれる送電・配電網を通じて各家庭や企業へと供給されます。この電力システムを安定して維持するためには、消費される電力と発電される電力、すなわち需要と供給を常に一致させなければなりません。誰かが照明をつけると、その分の電力が電力網から引き出され、即座に同量の電力を発電機が供給する必要があります。このバランスがわずか数秒でも崩れると、停電(ブラックアウト)を引き起こす可能性があります。

電力の総需要(負荷)は、時間帯や季節によって大きく変動します。例えば、資料に示された2019年の米国の電力需要データを見ると、電力使用量には明確なパターンがあります。季節的には、冷房需要が高まる夏と暖房需要が高まる冬にピークを迎え、春と秋は比較的需要が落ち着きます。また週単位では、多くの企業や工場が稼働を停止する週末に需要が落ち込む傾向が見られます。
このような急激な需要の増加に対して、発電所は迅速に出力を上げて対応する必要がありますが、発電方法によって対応速度は異なります。石炭を燃料とする火力発電や原子力発電は大量の電力を安定して供給できますが、需要の変化に素早く対応するのは苦手で、一度停止するとオンラインに戻すのに何時間もかかります。一方で、天然ガスを燃料とする火力発電は比較的迅速に出力を調整できるため、夏の暑い日の午後など、電力需要が最も高まる時間帯の需要を補うために重要な役割を果たします。
太陽光や風力といった再生可能エネルギーは、環境汚染が少ないという利点はありますが、風が常に同じ強さで吹くわけでも、毎日が晴天であるわけでもないため、出力を人間が容易に制御することはできません。そこで、電力網の管理者は電力の流れを安定させるために、大規模な蓄電池システムを利用しています。

しかし、現代の技術では、町や都市全体の電力を賄えるほどの量を蓄える蓄電池システムの実現は、コストと容量の面でまだ困難です。ある電力会社の例では、3つの大規模蓄電池システムを合わせることでやっと最大40万戸の家庭に電力を供給できるとされています。
さて、仮に世界的な一斉点灯が起きたとしても、壊滅的なシステム全体の停止は起こりにくいとのこと。その理由は1つに、世界には単一の統一された電力網が存在しておらず、ほとんどの国が国内に一つまたは複数の独立した電力網を保有しているからです。アメリカとカナダのように隣接する国の電力網は相互に接続され、電力を融通し合うこともありますが、緊急時には素早く切り離すことが可能です。そのため、どこか一つの地域で問題が発生しても、それが全世界の電力網に連鎖的に波及する可能性は低いといえます。
もう1つの理由が、省エネ性能に優れたLED電球の普及です。LEDは従来の電球設計とは異なり、非常に少ない電力で多くの光を生成できます。アメリカのエネルギー省によれば、LED電球を使用することで、平均的な一世帯あたり年間約225ドル(約3万3000円)もの電気代を節約できるとのこと。2020年の時点で、アメリカの家庭のほぼ半数が、自宅の照明のほとんどまたは全てにLEDを使用しており 、これが電力網全体の負荷を大幅に軽減する要因となっています。
電力供給の観点だけでなく、大量の光がもたらす環境への影響も重要です。もし世界中で一斉に照明が灯されれば、「スカイグロー」として知られる現象が劇的に増加します。これは、照明から放たれた光が、大気中のもやや塵の粒子に反射することで、夜空全体がぼんやりと明るくなる現象で、都市や高速道路は宇宙からでも視認できるほど明るくなり、一方で地上からは星が見えなくなってしまいます。

by Fernando Tomás
スカイグローは私たちの健康に影響を及ぼす可能性があり、人体の自然な睡眠と覚醒のサイクルを乱すことが指摘されています。さらに、昆虫、鳥、ウミガメなどの夜行性の野生生物の方向感覚を狂わせるなど、生態系にも悪影響を与えます。
ウォレス氏は結論として、「もし世界中の人々が一斉に電気をつけたら、電力消費量は多少増えるでしょうが、夜空は明るくなり、星が見えなくなります。あまり魅力的な景色とは言えません」と述べました。
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in サイエンス, Posted by log1i_yk
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