サイエンス

SNSのフィルターバブルやエコーチェンバー現象はどんな手を尽くしても修正不可能かもしれないとの研究結果


SNSには自分と同じ意見ばかりが目に付きやすくなるフィルターバブルや、同じ意見を持つ人同士で集まって思想が増幅されるエコーチェンバー現象などの問題があると指摘されています。こういった問題を解決するためにさまざまな介入戦略が提案されていますが、AIを用いてこれらの戦略をシミュレーションした新たな研究では、SNSのフィルターバブルやエコーチェンバー現象は修正不可能である可能性が示唆されました。

[2508.03385] Can We Fix Social Media? Testing Prosocial Interventions using Generative Social Simulation
https://arxiv.org/abs/2508.03385


Study: Social media probably can’t be fixed - Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2025/08/study-social-media-probably-cant-be-fixed/

SNSが登場した当初は、多様な人々が一堂に会した健全な意見交換の場になることが期待されていましたが、実際のところはフィルターバブルやエコーチェンバー現象により、偏った情報源になってしまっています。少数のインフルエンサーが注目を集め、エンゲージメントを最大化するように設計されたアルゴリズムによって怒りと対立が増幅され、SNSでは人々が二極化する状態となっています。


こうしたSNSの問題を解決するための研究の多くは実際のSNSから得られた観察データを用いて行われていますが、この方法では介入戦略を実装した場合の影響や効果を測定するのが困難です。そこで、アムステルダム大学の計算社会科学助教であるペッター・トゥーンベルク氏らの研究チームは、標準的なエージェントベースのモデリングと大規模言語モデル(LLM)を組み合わせ、SNS上の行動をシミュレートするAIペルソナを用いた研究を実施しました。

研究チームは、American National Election Surveyで収集されたアメリカの有権者の趣味や嗜好(しこう)を基に、「あなたの名前はボブ、出身はマサチューセッツ州、趣味は釣り」といったテキストで指定された大量のAIペルソナを作成。これらのAIペルソナが、ランダムなニュースフィードが表示されたり、それを読んでリポストしたり、ユーザーをフォローしたり、過去の投稿やプロフィールを読んだりできるSNSモデル上でどのように振る舞うのかを観察したとのこと。

もともとトゥーンベルク氏は、大規模言語モデルを社会のシミュレーションに活用することについて、かなり批判的な立場を取ってきたそうです。しかし、SNSのように文化的側面と構造的側面が互いにフィードバックを与える活動を研究する上で、これ以外の方法は考えにくいと指摘しています。


研究チームは、SNSの問題を引き起こす「党派的なエコーチェンバー」「少数のインフルエンサーへの影響力の集中」「過激な主張の増幅」といった問題を解決するため、以下の6つの介入戦略をシミュレーションしました。

・フィードを「おすすめ」アルゴリズムではなく、時系列またはランダムなものに切り替える
・エンゲージメント最適化アルゴリズムを反転させ、頻繁に再投稿されるセンセーショナルなコンテンツの可視性を減らす
・視点の多様性を高めて、ユーザーが反対の政治的見解に触れる機会を増やす
・感情を刺激するのではなく相互理解を促進するコンテンツを推奨する
・再投稿の数やフォロワー数といった統計情報を非表示にして、社会的な影響力を知る手がかりを減らす
・アカウントの自己紹介を削除して、アイデンティティに基づくシグナルの露出を制限する

シミュレーションの結果、これらの介入戦略を導入したとしても「党派的なエコーチェンバー」「少数のインフルエンサーへの影響力の集中」「過激な主張の増幅」といった問題が再現されてしまうことが判明。わずかな改善がみられる戦略もあったものの、根本的なメカニズムを破壊できるような戦略はなく、一部の戦略は事態を悪化させてしまったとのこと。

たとえば、時系列順のフィードは影響力の集中を改善する効果はあったものの、極端なコンテンツの増幅も促進されました。また、相互理解を促進するコンテンツの推奨は、党派性とエンゲージメントの関連を弱めることに成功しましたが、影響力の集中を増大させるというトレードオフがみられたと報告されています。


トゥーンベルク氏はテクノロジー系メディア・Ars Technicaのインタビューで、SNSユーザーが「誰かの投稿を再投稿する」という感情的な行動と、そこから形成されるネットワーク構造の間にはフィードバックが存在するため、結果的に有害なネットワークが形成されてしまうと主張。SNSには投稿・再投稿・フォローというダイナミクスが存在する以上、たとえプラットフォームやユーザーに問題がなくても、さまざまな悪影響が生じてしまうのではないかと述べました。

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in ネットサービス,   サイエンス, Posted by log1h_ik

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