サイエンス

心臓のがんはなぜ珍しいのかについて心臓の専門家が解説


国立がん研究センターによれば、2023年時点でがん(悪性腫瘍)による死亡は全死因の約25%を占め、最も多い死因となっているとのこと。そして、がんの部位別死亡数は肺がん・大腸がん・すい臓がん・胃がん・乳がん・肝臓がんが上位を占めていますが、最も重要な臓器である心臓のがんは非常にまれであることがわかっています。なぜ心臓のがんは珍しいのかについて、ピッツバーグ大学で心血管系を専門に研究する生物学者のジュリー・フィリッピ氏が解説しています。

Why is heart cancer so rare? A biologist explains
https://theconversation.com/why-is-heart-cancer-so-rare-a-biologist-explains-256055

がんは、細胞が制御不能に増殖することで発症し、時に深刻な病状を引き起こします。体のあらゆる組織や臓器は何十億、何兆もの細胞で構成されているため、理論的にはどこでもがんは発生し得ますが、心臓のように発生頻度が極めて低い部位もあります。統計によると、心臓がんは1万人に約3人の割合で発症しますが、乳がんは女性の20人に1人が罹患(りかん)するとされています。

フィリッピ氏は、心臓がんがまれなのは、心臓の細胞ががんに対して非常に強い抵抗性を持っているためだと説明しています。


細胞は成長や古い細胞の置き換え、損傷組織の修復のために分裂し、分裂の頻度は細胞の種類や役割、年齢などによって異なり、細胞分裂の過程は分子レベルのチェックポイントで厳密に制御されています。しかし、DNA複製時に有害物質や紫外線、放射線などで遺伝子が損傷すると、突然変異が生じ、がんの原因になることがあります。

心臓は発生初期に最初に形成され働き始める臓器ですが、成人後は細胞分裂の回数が極端に少なくなります。20歳を過ぎるとその頻度は大きく減り、一生のうちに置き換わる心臓細胞は半分以下です。細胞分裂が少なければDNA複製時のエラーも少なくなり、がんの発生リスクは低下します。

さらに、心臓は胸部の内部に守られた位置にあるため、皮膚が浴びる紫外線や肺が吸い込む有害物質といった発がん因子の直接的な影響を受けにくいという利点もあります。ただし、この低い細胞分裂率は、病気やけが、加齢によって損傷した細胞を修復・置換する能力が限られるという欠点も伴います。


それでも心臓に腫瘍が発生することはあります。多くの場合、それは他の部位で発生したがん細胞が血流などを介して心臓に移動する転移によるもの。胸部や皮膚の特定のがんは心臓に転移しやすい傾向がありますが、それでも発生はまれだとのこと。しかし、心臓がんは一度発症すると重症化しやすく、進行も速い場合があります。

心臓細胞の分裂の仕組みや、その変化の原因を解明することは、病気の理解や新しい治療法の開発に役立つ、とフィリッピ氏は述べています。近年では、血液細胞を心臓細胞に変える技術を用いて新たな心疾患モデルが開発され、将来的な心臓再生治療の可能性が広がっています。


フィリッピ氏は「がんがなぜ起こらないのかを理解することは、なぜ起こるのかを理解することと同じくらい、より良い治療法を開発するうえで重要です。その答えは、文字通り『心臓』の奥深くにあります」と語りました。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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