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「覚醒AI」かどうかというAIのイデオロギー的偏向を審査する「AI行動計画」をアメリカ政府が発表、中国に対する技術的優位性の確立を目指す


ホワイトハウスは2025年7月23日、ドナルド・トランプ大統領の行政命令に基づき、「AIレースに勝利する:アメリカのAI行動計画」を発表しました。この計画は、AIにおけるアメリカのリーダーシップを確固たるものにし、国民に経済的競争力、国家安全保障、そして人間性の新たな黄金時代をもたらすことを目的としています。

AI.Gov | President Trump's AI Strategy and Action Plan
https://www.ai.gov/

White House Unveils America's AI Action Plan – The White House
https://www.whitehouse.gov/articles/2025/07/white-house-unveils-americas-ai-action-plan/

この行動計画は、トランプ政権のAI政策を貫く3つの基本原則に基づいています。

1つ目は、技術革命によって生まれる機会からアメリカの労働者とその家族が恩恵を受けられるようにする「労働者第一」の原則です。2つ目はAIシステム、特に事実情報を扱う際には、社会的アジェンダではなく客観的真実を追求し、イデオロギー的な偏見から自由でなければならないという原則。3つ目は、先端技術が悪意のある者によって盗用・悪用されるのを防ぎ、予期せぬリスクを常に監視しなければならないという安全保障上の原則です。

by Ministerie van Buitenlandse Zaken

そして、この行動計画は主に3つの柱で構成されています。

第一の柱は「AIイノベーションの加速」です。これは、民間部門のイノベーションを妨げる官僚的な規制を撤廃することから始まります。具体的には、バイデン前政権のAIに関する行政命令を撤回し、AI開発を不当に阻害する連邦規制を特定し改廃する取り組みが進められます。また、連邦政府が調達する大規模言語モデル(LLM)は、イデオロギー的な偏見から自由で客観的であることを保証するよう調達ガイドラインが更新されます。


さらに、国立標準技術研究所(NIST)のAIリスク管理フレームワークから「誤情報」や「多様性・公平性・包括性(DEI)」といった概念に関する言及を削除することも提言されました。イノベーションを促進するため、スタートアップや学術界が利用しやすいオープンソース・オープンウェイトのAI開発を支援し、AIの導入が遅れている医療などの重要分野での活用を促すための規制サンドボックスの設立も計画されています。

第二の柱は「アメリカのAIインフラの構築」です。AI技術は膨大な電力を消費するため、データセンター、半導体製造施設、そしてエネルギーインフラの迅速な建設が不可欠であるとされています。そのために、国家環境政策法(NEPA)の下での許認可プロセスを合理化し、AIの発展ペースに対応できる強力な電力網を開発することが掲げられています。これには、既存の電力網の安定化、最適化、そして将来の需要増に対応するための成長戦略が含まれ、半導体製造をアメリカ国内に回帰させ、サプライチェーンを強化することも重要な目標となっています。加えて、これらのインフラを建設・運用するための技術者の育成も急務とされています。

第三の柱は「国際AI外交と安全保障における主導」で、アメリカのAIにおけるリーダーシップを世界的に確立するため、ハードウェアやモデル、ソフトウェア、基準を含むアメリカのAI技術一式を同盟国やパートナー諸国へ輸出することが推進されています。連邦政府は同時に、国連などの国際機関において、権威主義的な影響力、特に中国の影響力に対抗し、イノベーションを促進しアメリカの価値観を反映したアプローチを強力に主張しました。

安全保障面では、先端的なAIコンピューティング技術が敵対国に渡ることを防ぐため、輸出管理の執行を強化し、半導体製造に関する輸出管理の抜け穴を塞ぐ措置が講じられます。さらに、フロンティアAIがもたらしうる化学・生物兵器開発やサイバー攻撃といった国家安全保障上のリスクを政府が最前線で評価し続ける体制を構築するとのこと。


この行動計画の一環として、連邦政府が調達するAIがイデオロギー的に中立であることを求める大統領令「Preventing Woke AI in the Federal Government(連邦政府における覚醒AIの防止)」も別途発表されました。

Preventing Woke AI in the Federal Government – The White House
https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/07/preventing-woke-ai-in-the-federal-government/

この命令は、連邦政府が調達・利用するAI、特にLLMが信頼できる情報源であり続けることを保証することを目的としており、AIにイデオロギー的な偏見や社会的なアジェンダが組み込まれることで、出力される情報の質と正確性が歪められることに懸念を示しています。同時に、事実に基づく正確さよりも特定のイデオロギーや社会的なアジェンダを優先するAIを「覚醒(woke)AI」と呼び、客観的な真実よりも特定の望ましい結果を優先し、情報の正確性を歪めると批判されています。

命令ではその具体例として、AIが歴史上の人物の人種や性別を史実と異なって生成した事例や、特定の人種の功績を称える画像を生成しなかった事例が挙げられ、このような背景から、連邦政府は調達において、真実性や正確性をイデオロギーのために犠牲にするモデル、すなわち「覚醒AI」を購入しない義務があると規定しています。

この課題に対処するため、命令は連邦政府が調達するLLMが従うべき2つの「偏向のないAI原則」を定めています。第一の原則は「真実の探求(Truth-seeking)」であり、LLMは事実に基づく情報や分析を求める利用者に対して真実を伝え、歴史的正確性や客観性を優先するよう求めています。第二の原則は「イデオロギー的中立性(Ideological Neutrality)」で、LLMを特定のイデオロギーを支持するように応答を操作しない、中立で無党派のツールとすることを義務付けています。

この原則を実効性のあるものにするため、命令の日から120日以内に、行政管理予算局(OMB)が中心となって具体的な実施ガイダンスを作成し、各機関に通達することが定められています。そして、このガイダンスに基づき、今後の連邦政府による全てのLLM調達契約には、これらの原則を遵守することが条件として盛り込まれます。

しかし、こうしたトランプ政権のAI政策に関連して、主にイーロン・マスク氏のAI企業「xAI」を巡る矛盾した状況が報じられています。xAIが開発するGrokは、突如自身を「メカ・ヒトラー」と呼称して反ユダヤ主義を主張するなど、イデオロギー的に中立ではないと指摘されていますが、xAIはすでに国防総省と大規模な契約を締結しています。

アメリカ国防総省がAnthropic・Google・OpenAI・xAIと各最大2億ドルの契約を締結、国家安全保障のためのAI活用 - GIGAZINE


キャロライン・レビット大統領報道官は7月23日に行われた会見で、「トランプ大統領がxAIとの政府契約を支持しているか」との問いに対し、「そうは思いません、いいえ」と返答しました。しかし、xAIは月曜日に国防総省と最大2億ドル規模の契約を確保したと発表しており、政権の意向と実態が食い違っている状況が浮き彫りになっています。

また、IT系ニュースサイトのTechCrunchは、トランプ政権のAI行動計画が、中国への半導体輸出を阻止することを目指しているものの、その実現方法に関する具体的な詳細が欠けていると分析。さらに、「すでにあるガイドラインの上に新しい政策を実装するのではなく、将来の持続可能な輸出ガイドラインのための基本的な構成要素を提示しているに過ぎない」と指摘しており、ホワイトハウスの計画は具体的な実効性に乏しく、実際の輸出規制の強化にはまだ時間がかかると予測しました。

なお、経済紙のFinancial Timesによると、2025年の1月から6月までの上半期に、500以上の組織がAIに関してホワイトハウスと議会にロビー活動を行っているとのこと。この数字は2024年上半期と同程度ですが、2023年からは約2倍に増加しています。特にOpenAIのロビー活動費の増加は著しく、2023年には38万ドル(約5600万円)を費やしていましたが、2025年の上半期だけでその支出は180万ドル(約2億6300万円)にまで増加しているそうです。

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in ソフトウェア, Posted by log1i_yk

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