サイエンス

読書は孤独感を軽減して脳を活性化することが研究によって示されている


現代社会では多くの人々が孤独を抱えており、一部の人は孤独を癒やすためにAIチャットボットとのやり取りにハマっています。孤独が社会問題となる中で、ケンブリッジ大学の臨床神経心理学教授であるバーバラ・サハキアン氏らは、AIチャットボットよりも「読書」がはるかに優れた解決策になると主張しています。

Forget chatbots: research suggests reading can help combat loneliness and boost the brain
https://theconversation.com/forget-chatbots-research-suggests-reading-can-help-combat-loneliness-and-boost-the-brain-256613


孤独は幅広い世代において問題となっており、世界保健機関(WHO)の報告によると高齢者の約25%、10代の若者でも5~15%が孤独を感じているとのこと。そんな中でAI開発企業は、「AIチャットボットとの会話が孤独を和らげる助けになる」とアピールしています。

実際、AIの開発に注力しているMetaのマーク・ザッカーバーグCEOは2025年のインタビューで、「平均的なアメリカ人は3人以下の友人しかいません。平均的な人はもっと多くの友人を求めています」と述べ、AIチャットボットが現代人の友人不足を補う役に立つかもしれないと主張しました。

これに対しサハキアン氏らは、AIチャットボットよりも人間同士の交流が重要だと主張しています。2023年の研究では子どもや青少年が健全に成長し、脳の構造や認知能力、学業成績、メンタルヘルスを良好に保つには、親しい友人が5人ほどいれば十分だと結論付けられています。親しい友人が少なければ十分な社会的交流が得られず、SNS上のつながりだけでは人数が多くても社会的サポートが得られないケースがあるとのこと。

AIチャットボットとの交流は確かに孤独を紛らわせてくれるかもしれませんが、人々が生き生きと過ごすために必要な対面での社会的交流は提供してくれません。新型コロナウイルスのパンデミック中に行われた研究では、対面での交流がメンタルヘルスにとって重要であることが示されました。また、孤独な人がAIチャットボットを使うとさらに孤独感が増すという調査結果も報告されています。

孤独な人はAIチャットボットを使うとさらに孤独感が増すことが研究で判明 - GIGAZINE


サハキアン氏らは、「私たち自身のものを含むさまざな研究は、チャットボットよりも読書の方がはるかに優れた解決策となる可能性を示唆しています」と述べ、孤独にはAIチャットボットではなく読書が有効な対処法だと主張しています。

たとえば慈善団体兼読書クラブのThe Queen’s Reading Roomによる調査では、わずかな時間の読書であってもストレスが約20%軽減され、集中力と注意力が最大11%向上することが示されました。また、1日のうちの早い時間に読書をすることで、他者とのつながりを感じ、課題にチャレンジする意欲が高まるという効果や、フィクション作品を読むことで孤独感が大幅に軽減されることも確認されました。

別の慈善団体であるThe Readerが約2000人の被験者を対象に行った調査でも、被験者の74%が読書はメンタルヘルスと幸福にいい影響を及ぼすと回答しました。読書のメリットは特に若年層で強く、18~34歳の約59%が読書によって他者とのつながりが深まったと感じており、56%はパンデミック中に読書のおかげで孤独感が軽減されたと報告しています。

また2024年の研究では、学生が読書会に参加することには顕著な感情的・社会的メリットがあることが示されました。たとえば、42.9%の学生は読書の結果として他人とのつながりが深まったと感じていたほか、61.2%は他者の経験や信念への理解が深まったと考えており、14.3%は孤独感が軽減されたと報告しました。


読書している最中の被験者の脳スキャンを行った研究では、フィクション作品の特に社会的な内容を含む文章を読むことで、社会行動や感情理解に関わる背内側前頭前皮質などの脳領域が活性化することが明らかになりました。この脳領域は、フィクションを頻繁に読む人にみられる社会的認知能力の高さとも関連しており、読書が社会的つながりを強める神経的な回路があることを示唆しています。

さらに、調査開始時点で認知症ではなかった75歳以上の被験者469人を5.1年間追跡した研究では、読書が認知症リスクを35%低下させることが示されました。同様に多く研究で、読書が認知機能の低下を遅らせて認知症リスクを軽減することがわかっています。

1万人以上の子どもたちを対象にしたサハキアン氏らの研究では、幼少期に娯楽目的で読書をしていた子どもは、思春期の時点で脳構造や認知機能、学業成績などが優れており、睡眠時間が長く精神状態も良好で、不注意やストレス、うつ病の症状なども少ないことがわかりました。さらに重要だとサハキアン氏らが指摘しているのが、「スクリーンタイムが短く良好な社会的な交流を持っていた」という点です。

サハキアン氏らは、「AIチャットボットは私たちの生活をさまざまな面で豊かにしてくれますが、万能の解決策ではありません。テクノロジーには多くのメリットがある一方で、予期せぬ問題も数多く生み出していることは周知の事実です。読書や読書会を通じて、孤独や社会的孤立といった問題を解決しましょう。読書は脳の構造や認知機能、そして健康を改善する素晴らしい方法でもあるのです」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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