ソフトウェア

適切なライセンスを受けた素材でのみトレーニングされた動画生成AI「Marey」とは?


生成AIによるコンテンツは、SNSや作品投稿サイトで見ない日がほとんどないほどあふれていますが、著作権の問題や従来のクリエイターの機会を奪う可能性など、商業作品に取り入れるには依然として多くの問題を抱えています。映画監督のブリン・ムーザー氏が立ち上げた製作会社「Asteria」は適切にライセンスされた素材のみで学習された「倫理的な生成AI」である「Marey」を構築しており、その特徴とそれでも存在している問題についてムーザー氏が語っています。

Hollywood’s pivot to AI video has a prompting problem | The Verge
https://www.theverge.com/ai-artificial-intelligence/694687/asteria-bryn-mooser-uncanny-valley-gen-ai


Googleの映画制作ツール「Flow」や、物理法則をシミュレートしながら動画を生成するOpenAIの「Sora」など、テキストプロンプトや1枚の画像からムービーを生成するAIは急速に発展しています。OpenAIはSoraを映画制作に使うようハリウッドの映画スタジオやメディア幹部、タレントエージェンシーに売り込んでおり、Soraで作られた短編映画がアメリカのマンハッタンで開催されたトライベッカ映画祭で上映されるなど、動画生成AIは商業映画にも進出しつつあります。

OpenAIがハリウッドにムービー生成AI「Sora」を売り込んでいると報道される - GIGAZINE


ハリウッドでは「脚本家や俳優の仕事を奪うようなAIの使用を規制せよ」と要求するストライキにも発展するなど、生成AIへの反発が起きています。OpenAIはこれに対し、「誤情報やヘイトコンテンツ、偏見などの分野の専門家で構成されたレッドチームと協力し、モデルを敵対的にテストします」と安全措置を講じる旨を述べているほか、Soraによって生成されたムービーかどうか示す要素をメタデータに含めると明言しています。

動画生成AIに対する懸念のひとつが、AIモデルのトレーニングに使われたデータの不透明さです。仮に、著作権で保護された映画や、使用を許可していない人物が映った映像が学習データに含まれていた場合、そのAIを使用することで訴訟につながる可能性があります。そういった問題を回避するため、他の多くのAI企業とは異なり「倫理的」に構築された生成モデルが「Marey」です。


AI研究企業のMoonvalleyと、アーティスト主導の生成AI映画・アニメーションスタジオであるAsteriaは2024年12月に提携し、「エンターテインメント業界初となるクリーンな基礎AIモデルを構築する」と発表しました。MoonvalleyとAsteriaによるAIモデルは、写真のパイオニアであり映画史に大きな影響を与えた先駆者として知られているエティエンヌ=ジュール・マレーにちなんで「Marey」と名付けられています。以下は、Asteriaが公開しているコンセプトムービー。

Asteria Reel - YouTube


Asteriaの創業者で映画製作者でもあるムーザー氏によると、ハリウッドにAIを売り込む企業が失敗していたのは、映画制作の経験を持つ人がテクノロジー企業側にいなかったことが明らかだったためであるそうです。ムーザー氏の見解では、テクノロジー企業は生成AIの標準化を急ぐあまり、「AIで歌手の声を再現する」といった優れたAIの使い方と、「まだ完全とは程遠いAIによる動画の出力」を混同してしまっていたそうです。


ムーザー氏は「ハリウッドの人々が生成AIを使うことを映画制作の視点で考えると、いくつかはっきりした点がありました。ひとつは、映画製作者が求める制御レベルが多くの場合ピクセルレベルにまで及ぶため、一般的な生成AIの設計が機能しないということです」と語りました。そこでAsteriaはコアとなる生成モデルMareyを使用して、オリジナルのビジュアル素材でトレーニングした、プロジェクト固有の新しいモデルを作成しています。これにより、アーティストは独自のスタイルでさまざまなアセットを生成できるモデルを構築し、細かく制御できるようになります。

Asteriaは、トレーニングする素材のクリエイターにライセンス料を支払うことで「倫理的な生成AI」を実現しています。また、ライセンス料とは別の収益分配システムや、取り決め次第で映画製作者がカスタムしたモデルの一部所有権を保持できる可能性などを検討しています。


ムーザー氏は、生成AIを推奨する人々がしばしば口にするように、Mareyは創作をより身近に「民主化」するツールだと述べています。生成AIによって作品の制作を補助することで、より少ない予算と人員で制作を進めることが可能で、大規模なスタジオでなければ映画制作が難しいという課題をクリアできます。

AIによる「民主化」の一方で問題として浮上するのが、「AIによって失業者が出る」という懸念です。実際に、2023年6月から映画俳優組合とアメリカテレビ・ラジオ芸術家連盟(SAG-AFTRA)、映画テレビプロデューサー同盟(AMPTP)の数週間にわたる交渉が失敗に終わった結果、SAG-AFTRAに所属する俳優やスタッフは賃上げや労働環境の改善のほかに「脚本家や俳優の仕事を奪うようなAIの使用を規制せよ」と要求するストライキを実施しました。また、SAG-AFTRAはゲームにおける声優の報酬向上とAIに対する保護強化を求めるストライキも実施しており、さまざまなAIの用途においてはインフォームドコンセント(説明と同意)のプロセスを重要視する形で2025年6月11日に終了しました。

アメリカのゲーム声優によるAI反対のストライキが終了 - GIGAZINE


ムーザー氏は、生成AIが業界の仕事を奪うという懸念があることを認めつつも、「映画の製作法式がフィルム編集から移行していったように、適応力がある映画製作者やアーティストは、この技術を活用するチャンスがあります。本当に重要なのは、業界として、この技術の良い点と悪い点、物語を伝える上で何が役立ち、何が危険なのかを理解することです」と語りました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
GoogleがAIで映画を作れるツール「Flow」を発表、画像生成AI「Imagen」や動画生成AI「Veo」を統合しシーン生成からカット編集まで実行可能 - GIGAZINE

OpenAIがハリウッドにムービー生成AI「Sora」を売り込んでいると報道される - GIGAZINE

ハリウッドの俳優や脚本家が「仕事を奪うようなAIの規制」を求めてストライキを起こす - GIGAZINE

アメリカのゲーム声優によるAI反対のストライキが終了 - GIGAZINE

アカデミー賞が「生成AIが映画に使われているかどうかはプラスにもマイナスにもならない」と公式のガイドラインに明記 - GIGAZINE

in ソフトウェア,   動画,   映画, Posted by log1e_dh

You can read the machine translated English article What is Marey, a video generation AI tra….