メモ

カーリングで起きた技術チート「ブルームゲート事件」とは?


世界カーリング協会は2026年開催のミラノ・コルティナ冬季オリンピックのシーズンに向けて、用具に関する規則を全面的に厳格化しました。実際に、2015年のカーリングシーズンでは特定のブラシを使うと氷上のストーンをあまりにも制御しやすくなってしまうという「ブルームゲート事件」が発生しており、用具の規則の厳格化はブルームゲートのような問題を避けるためだと考えられます。

World Curling tightens sweeping rules, bans firmer broom foams ahead of Olympics | CBC Sports
https://www.cbc.ca/sports/olympics/winter/curling/world-curling-broom-ban-1.7566638


Curling's only scandal: How 'Broomgate' changed the game forever | CBC Sports
https://www.cbc.ca/sports/olympics/winter/curling/broomgate-curling-scandal-1.7354882

ブルームゲートは2015年~2016年のカーリングシーズンで発生したテクノロジー・ドーピングをめぐる論争で、カーリングに用いるブラシとストーンの前をこする「スイープ」の技術が向上しすぎたことにより、競技のあり方が大きく変化した問題を指します。

カーリングはストーンを氷上で滑らせ(ショット)、ストーンの進行方向をブラシでスイープすることで摩擦を減らしてより遠くに、よりまっすぐな軌道で進むように調整するスポーツです。しかし、2015年に登場した合成素材を使ったブラシは、従来のナイロン製のブラシと比べて表面の素材や構造が微細であり、摩擦の影響が極端に大きくなったため、氷の表面を磨くだけではなく物理的に削ることを可能としていました。


その結果、スイープの効果がストーンを遠くまっすぐ進めるだけではなく、スイープによってストーンのカーブを変化させ、ストーンのスピードや進行方向を極端にコントロールできるようになりました。戦略的に不利な状況でもスイープだけで形勢逆転するケースが多発し、「ストーンをショットする技術を奪う」「ショットでミスしたのにスイープで完全に取り戻せるのは公平性を欠く」として批判が集まりました。

物議を醸した製品のひとつが当時新興のハードライン・カーリングが製造した「icePad(アイスパッド)」と呼ばれるブラシです。ブラシヘッドにテクスチャ付きの合成素材を使用しており、氷の表面を削るようにして物理的な変化を与えることが可能で、ストーンの軌道やスピードを意図的に操作できてしまうほか、実験では通常のブラシだと物理的に不可能な動きも再現できたと報告されました。


カナダのトロントで毎年開催されるカーリング大会である「スチュ・セルズ・トロント・タンカード」の2015年大会は、ブルームゲート事件が表面化した大会のひとつです。この大会で、アイスパッドを使うチームと、アイスパッドに対抗して作られた「ブラックマジック」と呼ばれるさらに強力なブラシを使うチームが激突しました。ブラックマジックがあまりにも強力で、アイスパッドを使うチームが激怒した結果、大会の途中で「紳士協定」が結ばれてどちらのブラシヘッドも使用しないという試合もありました。同大会決勝もアイスパッドとブラックマジックの対戦となり、紳士協定は拒否された結果、ブラックマジックのスイープで荒らされた氷の清掃が必要になり、試合時間が通常の1時間以上長引く事態になりました。最終的に、氷が荒らされまくったせいでブラックマジックのチームがショットを1つ大きく失敗し敗北しました。

そのほかさまざまな大会でブルームゲート問題が広がり、世界カーリング協会は2015年11月に新品のブラシヘッドの使用を一時停止する措置を講じました。その後、2016年5月様々なブラシヘッドをテストする「スイーピングサミット」が開催され、ブラシ素材や構造に関する新たな規定が制定されます。

元カーリング選手でコメディアンのジョン・カレン氏は、CBCのポッドキャストで「ブルームゲート:カーリングスキャンダル」という番組の司会を務め、ブルームゲート事件を詳細に語りました。カレン氏は「亡くなった人はいないし、ブルームゲート事件を話しても危険にさらされる人はいません。それでも、かなりの数のカーリング選手は何が起こったのかを忘れておらず、それが今でもそのことを話したくない理由になっています」と、当時の問題の根深さを語っています。


ブルームゲート事件は2015年の発生から2016年の規則強化で収束しましたが、規則の抜け穴を付くような動きが再燃し、2023年頃から再び注目され始めました。一部メーカーが規則の範囲内ギリギリで氷を強く削ることができる新素材を使用して、規則には準拠しているものの「スイープ性能を極端に向上させる」ように見えるテクノロジーが登場します。これは「ブルームゲート2.0」と呼ばれており、2025年1月には2025マスターズ・グランドスラムを前に、男子と女子の強豪カーリングチーム15チームずつが集まって、一部のチームが使用している新しいパッドテクノロジーに対する懸念をまとめた「カーリングにおけるフェアプレーのための提案」を世界カーリング協会に提出しました。

そして2025年6月20日、世界カーリング協会はオリンピックシーズンに向けて、用具に関する規則の更新を発表しました。世界カーリング協会は「2024~2025年シーズンを通して、複数のブラシヘッド構造が過剰に有効であると報告された課題を受けて、オリンピックシーズンに向けて掃除用具のコンプライアンス規制を即時更新します」と述べており、世界カーリング大会での使用が承認されるブラシを一部に限定しました。世界カーリング協会は「私たちは、昨シーズンの状況が危機的な状況に陥る一因となった、以前の検査プロセスにおける問題を深く遺憾に思います。信頼性の高い継続的な検査の重要性を認識し、この競技の信頼性を高めるために、効果的な競技前検査の構築に尽力いたします。私たちのスポーツの長期的な将来と安定性のために、用具に関するポリシーと検査プロトコルを強化しながら、関係者との作業と緊密な協議を継続していきます」と語っています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「カーリングのストーンはなぜ曲がるのか?」という何百年も続いた謎を研究者らが解明 - GIGAZINE

「ドーピングやり放題のオリンピック」に専門家が反対するのはなぜか? - GIGAZINE

アスリートはバレにくい不正行為として「遺伝子ドーピング」を行うようになるかもしれない - GIGAZINE

AIはアスリートの「ケガ防止」や「パフォーマンス向上」にどうやって役立てられているのか? - GIGAZINE

素人でもビリヤードで正確なショットを繰り出せる「コンピューター制御の自動式キュー」を開発した猛者が登場 - GIGAZINE

卓球台の売上げからテクノロジー業界の盛衰がわかる - GIGAZINE

in メモ, Posted by log1e_dh

You can read the machine translated English article What was the 'Bloomgate Scandal' involvi….