サイエンス

「常に同じ面を下にして安定する四面体」を理論的に証明するだけでなく現実に作り出すことに成功


起き上がりこぼし(起き上がり小法師)は底に卵形の半球が付いたおもちゃであり、底の部分に入っている重りのおかげで傾いても勝手に起き上がります。そんな起き上がりこぼしのように「常に同じ面を下にして安定する四面体」を、数学者が理論的に証明しただけでなく現実に作り出すことに成功しました。

A New Pyramid-Like Shape Always Lands the Same Side Up | Quanta Magazine
https://www.quantamagazine.org/a-new-pyramid-like-shape-always-lands-the-same-side-up-20250625/


1966年、アメリカの数学者であるジョン・コンウェイリチャード・ガイは、「均一な材料で作られていて重量が均等に分散された四面体で、1つの面でしか安定しない構造は可能かどうか」という疑問を思いつきました。数年後、2人はこの四面体が存在しないことを証明しましたが、「重量が不均一な四面体ではどうなのか?」という点は謎のまま残されたとのこと。

起き上がりこぼしのことを考えると、どれか1つの底面を極端に重くすれば、どのような向きにしても勝手に同じ面を底にして安定する四面体を作れると思うかもしれません。しかし、一般に起き上がりこぼしのような構造は滑らかあるいは球形でないと機能しないため、鋭い角と平らな面を持つ四面体を常に同じ側にひっくり返るようにするのは困難です。


数十年にわたってこの疑問は放置され続けてきましたが、2020年代に入ってから、ハンガリーのブダペスト工科経済大学で形状モデリング教授を務めるガボール・ドモコス氏がこの問題に着目しました。ドモコス氏は長年にわたり物体のバランスについて研究しており、2006年には1つの安定平衡点および1つの不安定平衡点のみを持つ「ゴムボック」という珍しい物体の存在を証明しました。

以下が実際に作られたゴムボックの像です。ゴムボックが安定する平衡点は底の1点と上部の1点のたった2つのみであり、上部の1点を除くどのような向きで置いたとしても、より安定性の高い1点を下にして安定するとのこと。

by Wikimedia Commons

ゴムボックはところどころ丸みを帯びた形状ですが、ドモコス氏はとがった多面体にも同様の性質があるのかどうかに興味を持ちました。ドモコス氏は、「極めて単純な対象に関する非常に単純な主張が存在するにもかかわらず、なぜその答えが即座に得られなかったのでしょう?私はこの疑問が、きっと宝物なのだろうと確信しました」と述べています。

ドモコス氏は2022年、自身の研究室に入った学部生のジェルジ・アルマーディ氏に対し、四面体のバランスの取り方を探るためのアルゴリズムを作るように依頼しました。2023年にはその他の研究者らと共に、どの向きで置いても特定の面を下にして安定する四面体が実現可能であることを証明しました。この四面体は接続する3辺が90度を超える鈍角を形成し、重心が全部で4つある「荷重ゾーン」のいずれかにあることで実現するとのこと。

しかし研究チームは、この物体が単に理論的に実現可能であると証明するだけでなく、現実世界の物体として作り出せないかと考えました。そこで、「中が中空になった軽量のカーボンファイバー製フレームと鉛よりも高密度な炭化タングステン(タングステンカーバイド)」からなる四面体を設計。ハンガリーの精密エンジニアリング会社に依頼し、実際に数カ月の期間と数千ユーロ(数十万円)を費やして四面体を製作してもらいました。

以下が実際に製作した四面体。フレームは極細のカーボンファイバー製で、底の一部分に重りとなるタングステンカーバイドの板が張ってあります。


試しに別の面を下にして設置。


指を離すと、四面体は勝手に起き上がります。


タングステンカーバイドがある面が底となって起き上がりました。


今度は別の面を底にしてみます。


やはり起き上がります。


同じ面を下にして安定しました。


研究チームは2025年6月に発表した未査読論文で、1つの面のみで安定する四面体の実用的なモデルを製作したことを報告しています。

[2506.19244] Building a monostable tetrahedron
https://arxiv.org/abs/2506.19244

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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