新海誠監督作品を送り出している制作会社「コミックス・ウェーブ・フィルム」はどのような世界展開を行っているのか?

「マチ★アソビ vol.28」で、『すずめの戸締まり』をはじめとした新海誠監督作品を手がけるコミックス・ウェーブ・フィルムが挑戦してきた世界展開の舞台裏を語る「アニメはどこまで飛べる?CWFのグローバル冒険記」と題したトークイベントが開催され、海外事業部チーフの石丸葵さんと海外事業部顧問の大西美枝さんの取り組んでいる仕事をベースに、どのように世界展開を行っているかが語られました。
アニメはどこまで飛べる?CWFのグローバル冒険記 - マチ★アソビ
https://www.machiasobi.com/stage/164/
モデレーター・川口典孝さん(以下、川口):
皆さん、よう来られました。こんな地味でよくわからないようなイベントに来てくれて、とてもありがたい話です。日本アニメが海外でどう戦ってるかみたいな話、興味あります?
(あるあると強い反応)
川口:
ありがとうございます。これは、新海誠がどう戦っているのかに興味があるのか、日本アニメ全体がどう戦っているのかに興味があるのか、どっち?両方?
(会場から複数「両方~」の声)
川口:
おおー、ちょうどいいね。じゃあ自己紹介を。モデレーターを仰せつかりました、コミックス・ウェーブ・フィルムの川口です。会長になりました。よろしくお願いします。
大西美枝さん(以下、大西):
コミックス・ウェーブ・フィルムの海外事業部の顧問をさせていただいています、大西美枝と申します。よろしくお願いします。
石丸葵さん(以下、石丸):
コミックス・ウェーブ・フィルム海外事業部のチーフをしております、石丸と申します。よろしくお願いします。コミックス・ウェーブ・フィルムがどういう会社かはみなさんご存じだと思うんですけれども……。
(会場拍手)
川口:
うちの会社は、基本的には3〜4年かけて1本、新海誠の作品を作っています。STORYや東宝とも組んでいて、海外事業部があるので韓国やインドとは結構直接やりとりをしているし、他の地域は東宝と組んで全世界回っているという感じです。
石丸:
興行収入という切り口で新海監督の直近3作品の海外展開がどういう感じかご紹介させていただくと、『君の名は。』は日本では250億円というヒットで、海外でもヒットし、当時の日本映画として全世界興収でNo.1になりました。

石丸:
次の『天気の子』は2019年に公開されて、全世界興収としては『君の名は。』より低いんですが、北米とかでは『君の名は。』より興行収入が高くなっています。

石丸:
そして2022年、『すずめの戸締まり』は、日本では150億円と『天気の子』と同じぐらいだったんですけれど、海外では『君の名は。』『天気の子』を上回る大ヒットで、日本の約2倍の興行収入を記録しました。

石丸:
全世界興収で見ると現時点では『すずめの戸締まり』がNo.1となっております。

川口:
すげえじゃん!
(会場拍手)
石丸:
しかも、配給する国や地域は作品ごとに増えていて、『君の名は。』は135でしたが『天気の子』は144、『すずめの戸締まり』は199で、世界のほとんどの国や地域で公開されています。

(会場拍手)
川口:
すごいよ、新海誠。
石丸:
みなさんには『すずめの戸締まり』でどんなワールドツアーを行ったか、映像をご覧いただこうと思います。
(映像上映)
川口:
アメリカや日本は野球が人気だけど、ヨーロッパとかその他の地域だと野球人気はそれほどでもないので、全世界的にみると「大谷さん」より「新海さん」のほうが有名なんじゃないかと思っています。
石丸:
『すずめの戸締まり』のワールドツアーでは3カ月かけて9カ国・13都市を巡りました。
川口:
アニメだからこそ世界中に呼んでもらえています。日本でもそうだけれど、「新海誠が来る」というだけで人が集まります。そんな中、最初にベルリン国際映画祭に参加し、その後1カ月ぐらいかけて何カ国も回って西に行ったり東に行ったり、朝起きたら「ここどこだっけ?」みたいな中、まこっちゃん(新海誠)は朝から晩まで取材と舞台挨拶をしていたということがありました。そこで全世界のファンと交流して、その経験を次回作に活かす、という。
石丸:
今回は私と大西さんにゆかりの深い2カ国の事例を紹介させていただこうと思います。
大西:
石丸さんがインドで私がアメリカです。
石丸:
まず私の自己紹介なんですが、実はコミックス・ウェーブ・フィルムには今年1月に入社したばかりの新人です。それまでは国際交流基金という、海外で日本文化を紹介する外務省傘下の組織で働いていて、2018年から昨年10月までインドに駐在していました。
インドではいろんなイベントを企画していたんですけれど、その中で日本映画を紹介する「Japanese Film Festival」というのに力を入れていまして、2019年に新海監督をお呼びすることになり、初めてコミックス・ウェーブ・フィルムの皆さんとお会いしました。皆さんがインド映画市場のことをご存じかどうかわからないのですが、インドでは圧倒的に国産映画が強くて。「ボリウッド」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、ボリウッド以外にも国内各地に有名な映画の産業地域があって。
川口:
ハリウッドが4つぐらいあるようなものだよね。
石丸:
ですので、アメリカのハリウッド映画ですら、ベスト10には入ってこないという。
川口:
『スパイダーマン』ですら入ってこないんだからすごいよね。日本も特殊な市場だけれど。
石丸:
はい、たとえば2023年は『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が世界中でヒットして、日本でもベスト10に入りましたけれど、インドではベスト10にも入りませんでした。ちなみに、インドと日本では映画のチケット価格がまったく違いますけれど、だいたい1年間で約2000億円の市場というのは同じです。

川口:
都心は普通に2000円ぐらいするんだけれど、地方に行けば行くほど安くなってる。中国もそうだけれど、たぶん末端まで行くと100円とかだよね。あと、初日は高いけれど、1カ月ぐらいするとどんどん安くなっていく、ダイナミックプライシングみたいなこともやってるね。
石丸:
なので、シェアは国産のインド映画がほとんどで87%、ハリウッドが8%、その他が5%というのがインドの現状です。それで、インドでどうして『天気の子』が公開されたのかという話に入っていきます。実は、『天気の子』は日本映画として初めてインド全土で公開された映画なんです。
川口:
それまで日本映画はオールインドではかかったことがないんだよね。
石丸:
『天気の子』以前にインドで公開された日本映画は『万引き家族』があるんですが、全土での公開は初です。なぜインド全土で公開されたのかというと、日本でもニュースになったりしたのでご存じの方もいるかもしれませんが、きっかけはこの1枚のポスターです。そもそもは1人の高校生が「新海監督の次回作、『天気の子』を劇場で見たい」と署名活動を始めたんです。

石丸:
インドでは『君の名は。』は公開されていなかったんですが、なぜか大人気で。……たぶんみなさん、違法サイトで視聴したりしていたのかなと。
(会場笑)
石丸:
勝手にヒンディー語字幕を作ったり、吹替版を作ったりして、いろんな人が見ていて、すごく人気があったんですけれど、公開はされていない状態でした。その新海監督の次回作である『天気の子』はぜひ劇場で見たい、劇場で見なければ新海監督やコミックス・ウェーブ・フィルムのクリエイターのみなさんにお金が入らないじゃないかということで、「私たちはファンとしてクリエイターにお返しがしたい」と、高校生が署名活動をしたところ、5万6000人の署名が集まったんです。当時、インドにいた私のところにある日、若いインド人が訪ねてきて、このポスターを見せられて「これを貼ってください。インドに『天気の子』を持ってきたいんです」と言われたんです。最初は「そんなことできないんじゃないか?」と思ったんですけれど、あまりにも純粋でキラキラとした目をしていて、なんとかしてあげたいと思い、ダメ元でコミックス・ウェーブ・フィルムに連絡をさせていただいて。「いま、こういうことがインドで起こっているんですけれど、なんとかなりませんか?映画祭もあるんですが、監督に来ていただませんか?」と相談したところ、新海監督が本当にインドに来てくださって。インドのアニメファンにとって忘れられない出来事になりました。

川口:
インドの人たちはなぜか「新海!新海!」って呼び捨てなんだけれど(笑)、立ち上がって舞台まで来ちゃうんだよ。インドでは尊敬する人の足を触るらしくて、みんなが靴を触るの。
(感嘆の声)
川口:
覚えているのは、『君の名は。』と『天気の子』を一緒に見たんだけれど、インドの人たちは立って応援するんですよ。まずは映画館で立って国歌斉唱をしてから座って映画を見るんだけれど、たとえば『天気の子』のクライマックス、2人で手を繋ぐところなんて立ち上がって「ワー!!!!」て。「新海作品って、そういう感じ?読後感を楽しむんじゃないの?」って思ったりもするけれど(笑)、そうやって愛を叫びながら見てる人たちはすごく衝撃的でした。新海誠もいたく気に入って「次の作品でまた来たいと思います」と言ったら「ドワーッ!」と。
石丸:
このプレミア上映のあと、『天気の子』はインドの38都市で公開されて大ヒットしました。それまでアニメを公開したことのなかった配給会社は「こんなにも受けるの!?」と驚いて。日本でニュースにもなったので「うちの映画もかけてください」と続々と連絡があり、他のアニメ作品も続々とインドで公開されるようになりました。『鬼滅の刃』もそうだし、『呪術廻戦』『ONE PIECE』と公開されて、今では毎年10作品ぐらいの日本のアニメ映画が公開されるようになりました。これはもう『天気の子』さまさまだなと。新海監督は「3年後に新作を持ってまたインドに来ます」と約束してくださった上に、本当に約束を果たすためにまた来てくれました。

石丸:
『すずめの戸締まり』では、日本映画のインドでの興行記録を塗り替えて、初めて1億ルピーに到達しました。日本円に換算するとだいたい1.7億円ぐらいなんですけれど、現在まで破られていません。これがすごいことなのかみなさんちょっとわからないと思うんですけれど、インドでは10億ルピー行けばヒットといわれていて、その10分の1ぐらいということになります。「インドの国産映画が10億ルピーいけばヒット」なので、かなりいいところまでいったということで、次にも期待が高まっております。

石丸:
なぜ『すずめの戸締まり』がここまでヒットしたかというと、ファンのコミュニティをすごく大事にしたということがあると思います。インドはすごく広くて、各地にアニメファンが有志でやっているクラブみたいなものがあるんです。映画祭では『すずめの戸締まり』のプレミアに各地のクラブのリーダーの人を呼んで、新海監督との懇親会をやりました。新海監督に直接質問して答えを聞くことができるので、すごくみんな喜んでいました。

石丸:
各地でもイベントが増えていて、これは昨年、川口さんと大西さんに来ていただいた「メラ!メラ!アニメジャパン!!」という現地の日本人が始めたイベントの写真です。

川口:
すごく盛り上がったよね~。
石丸:
1回目のイベントなんですけれど、2日間でだいたい6万人ぐらい集まって、すごくびっくりするという。
大西:
初インドでした。
川口:
現地では日本語で話しかけてくれて、すごく新鮮でした。
石丸:
まだまだインドでは海賊版も流通しているんですけれど、本物の力を見せて喜んでもらおうと。
川口:
これが去年の、いつだっけ。
石丸:
9月ですね。
川口:
このあと「石丸さんがうちに来ます」と言われて「マジか!?」と思ったんだけれど、なんでうちに来たの?日本にそろそろ戻ろうと思ってたとか?
石丸:
そうですね、まあだいぶ現地も長くなったのでそろそろ帰りたいなというのもありましたけれど。
川口:
なにか具体的な口説き文句はあったの?俺が誰か人を口説くときは「新海誠と一緒に世界を平和にしようぜ」って。
(拍手)
川口:
国際交流基金って、外務省のちゃんとした団体でしょ。よく、うちに入ろうと思ってくれたなと。
石丸:
2019年からいろいろやらせていただいて、インドでもイベントをやって、新海監督の作品を見るファンのみんながキラキラして純粋に喜んでいて。もっとこういう作品を届けて、みんなに喜んでほしいと思って、それはコミックス・ウェーブ・フィルムでしかできないかなと。インドだけじゃなくて、もっと海外のいろんな国に広げられたらなと思ったのがあります。私もオタクなので。
川口:
そう、オタクなんですよ。なんか、ハルヒダンスとかやってたよね。
石丸:
そういうこともありました(笑)。””””私もアニメで世界の人々を笑顔にしたいと。そういう思いは一緒だと思ったので入社しました。
川口:
日本の存在感って海外でとにかく落ち込んでいて、たとえば10年、20年前だったら香港には日本企業の看板がいっぱい並んでいたんだけれど、今はほとんど韓国や中国の企業のものになっていて、日本が誇れるのは本当にアニメや漫画、ゲームしかないんじゃないかなと思うぐらいです。そういう業界にやってきたというのは、いい選択だったんじゃないかと思います。
石丸:
あと私の野望をちょっとだけご紹介させていただくと、『すずめの戸締まり』では作って公開したんですが、やっぱり『君の名は。』や『天気の子』のヒンディー語吹替版を作りたいというのがあります。インドで英語を話せる人というのはだいたい10%ぐらいで、14億人の10%なのでだいたい1億4000万人ぐらい。ヒンディー語を話す人々はだいたい5億人。英語がわかる層には響いているけれども、やっぱりヒンディー語、自分たちの母語で見てもらえるようにしたいなと。で、もうひとつは、インド人の好みに合ったグッズを作って販売したいというのもあります。

大西:
ちなみに「インド人好み」というのはどんなイメージ?
石丸:
Tシャツでいうとキャラクターの顔が胸にドーンとあるようなイメージです。
(会場笑)
石丸:
「おしゃれ」よりは「インパクト重視」で、これはちょっと開発中です。最後のひとつは、新作で『すずめの戸締まり』のインド国内の興行記録を塗り替えたいなと思っています。
(拍手)
川口:
お疲れさん、石丸さんでした。
大西:
ボリウッドの次はハリウッドのお話をしたいと思います。今回、自己紹介の資料をアップデートしていて、「もう25年」と思ってしまいました。この業界に25年ほどおります。はじめはユニバーサルという会社で洋画の買い付けとかから始まって、だんだん邦画の映画制作に入っていきまして、そこからアニメーションの方にシフトしていきました。前職はマーザ・アニメーションプラネットというセガサミーグループの会社で、直近では『ソニック・ザ・ムービー』という、皆さんご存じならうれしいですけれど、シリーズ3作目まで出ていて、いま4作目を作っているというもののプロデュースをやらせていただき、その期間中は5年ほどロサンゼルスに駐在していました。

川口:
『ソニック』はすごく時間がかかったよね。
大西:
その話をすると時間いっぱいあっても足りません(笑)
(会場笑)
川口:
でも、そのおかげで日本でも数少ない、ハリウッドにちゃんとした人脈がある人なんです。それで今は徳島在住だという。
大西:
そうなんです、いまは徳島在住で。
(会場拍手)
川口:
うちの海外事業部の会議に出てくれて、活躍してくれています。
大西:
新海監督作品を私の年表に合わせて並べてみました。皆さん、この新海監督のわずかなブランクは何があったかご存じですか?

川口:
『秒速5センチメートル』と『星を追う子ども』の間ね。
大西:
ここは新海監督がイギリスに留学されていた時期なんです。私の新海作品との出会いは『秒速5センチメートル』で、むちゃくちゃ感動して、コメンタリーを見たときは「やば……私、この人と結婚するかも」と思うぐらいで。

(会場笑)
大西:
それぐらい感動して川口さんのところに走って行ったというのが出会いでした。
川口:
当時、ユニバーサルだったよね。
大西:
そうです。新海監督にもロンドンでお会いして。
川口:
まこっちゃんが急にロンドンに行くと言い出して、3カ月か半年ぐらいで帰ってくるだろうと思ったら最終的には1年以上も行っちゃって。
(会場笑)
川口:
俺、3カ月に1回ぐらいロンドンに行って「帰ってこないか?」ってプレッシャーをかけたんだけれど、すればするほど帰ってこないっていう(笑) 『星を追う子ども』はいっしょにやろうと思っていたんだよね。

大西:
でもそれができなくて川口さんにはご迷惑をおかけして……というのがありまして。こうして振り返って、なぜ私はアニメーションをやるようになったのかと思ったら、新海監督の作品に感動して、こんな素晴らしい才能をもっともっと見てもらいたいと思ったのがきっかけだったなと。
川口:
彼女にお願いしているのは売る方じゃなくて作る方で、脚本から立ち上げていくところを手伝ってもらっています。右下の写真はビバリーヒルズのカフェで脚本会議をしたんだよね。どえらい暑いところで……。

大西:
ねえ、道端のところで。
川口:
倒れそうなぐらいだった(笑) 左下はNetflixのイベントのときでお願いしたら二つ返事で来てくれて。うちのことや新海誠のことを全部わかってくれて、その場で英語にしてくれるので、バリバリの通訳に来てもらうよりもいいので、長い付き合いになっています。
大西:
それでハリウッドから帰ってきたあとはちょっと東京にいたんですけれど、コロナもあったりして、徳島に戻ってきました。徳島トヨタさんの80周年キャラクター、TAGTAGというのをやったり。ご存じかどうかわからないですけれど。

川口:
そこ拍手だろ~、TAGTAGだよ!?
(会場笑・拍手)
大西:
よろしくお願いします(笑)。オリンピックロゴを制作された野老朝雄さんが手がけられていて、キャラクター化をお手伝いしています。あと、今度は松本大洋先生の傑作『Sunny』の映画化が先月発表になって、カンヌ映画祭に持っていってきます。プレゼンテーションの場が5作品分設けられていて、カートゥーン・サルーンとかと一緒に発表を行います。

川口:
これはドワーフということだから、ストップモーション?
大西:
ストップモーションで、監督は『鉄コン筋クリート』のマイケル・アリアスさんです。

川口:
マイケル・アリアスといえばCGって感じがするけれど、超アナログ、超フィジカルでいくと。ストップモーションはAIとは正反対なので、次はここが来るんじゃないかと思ってます。宝塚とか歌舞伎とか、選択肢としてこれから強いんじゃないかなって。配給はGKIDSなんだね。GKIDSはニューヨークの配給会社で、東宝が買収したところです。どんどん海外に出て行くね。
大西:
そうなんです。あともう1つ……。
川口:
『HIDARI』、知ってる?

(会場反応あり)
大西:
ありがとうございます。ちょっと30秒ぐらいの映像を見ていただければと思います。
ストップモーション時代劇「HIDARI」パイロット版 特別上映告知 - YouTube

大西:
木彫りの人形を動かしてるんです、本当に信じられないです。
川口:
あの血が飛び散るやつ、おがくずなんだって。
大西:
はい、リアルのおがくずです。これを長編にしようと思っていまして。実は先々月、ハリウッドに持っていって回ってきまして、まだ何も言えないんですけれど、近々、もしかしたら面白い発表ができるんじゃないかと思います。ここでご覧になった方は覚えておいてもらって、なにか出たときに「あれや!」と思っていただけるとうれしいです。あと取り組みの方では、新しくものを作りたいという方々向けに場を作りたいと思っていまして、パイロットフィルムに焦点を当てた「渋谷パイロットフィルムフェスティバル」というのを始めています。今までに作ったけれどもうまくいかなかったものとか、さっきの『HIDARI』みたいに、これから作り上げようとしているものを見せる場を作ろうと。2024年にすごく好評だったので、今年もやろうと思っております。

川口:
渋谷のシネクイントなんだ。
大西:
あともう1つ取り組みとして、このあいだのロサンゼルスの山火事でたくさんの被災者が出まして、山火事があった地域は、アニメーションを作る制作者もたくさん住んでいたので、私の友人も何人も家が燃えたりしました。それで、すべてのアメリカのアニメーション会社が連携してAnimAID(アニメエイド)というのを立ち上げてサポートに動いています。日本でもAnimAID Japanを立ち上げてMakuakeのほうでクラウドファンディングをやらせてもらっています。

【ロサンゼルス 山火事被害】アニメーション制作従事者応援プロジェクト|マクアケ - アタラシイものや体験の応援購入サービス
https://www.makuake.com/project/donation_la_animation/
大西:
……という宣伝はそれぐらいにして、ハリウッドの話に戻りたいと思います。ハリウッドはそもそもはアメリカの地名ですが、ご存じですか?徳島市でいえば住吉みたいなものなんですが(笑)
(会場笑)
川口:
ハリウッドってピンと来る?「ハリウッド映画」っていったほうが通じるかな。『スパイダーマン』とか「MCU』とか。俺はいま56歳なんだけれど、俺が高校生のころは映画といえば日本映画なんて見に行かなくて、ほとんどハリウッド映画という時代だったんだけれど、今の子たちは別にそうでもないよね。一応、ディズニー・ピクサーもハリウッド映画だけれど、ディズニー・ピクサー映画なら見るかな。最近のディズニー・ピクサー映画、面白い?
(会場、「う、うーん」と微妙な反応)
川口:
……っていう話をします(笑)
大西:
あのあたりは天気が良くてあまり雨が降らなくて、山があって海があって平地があってというロケーションなので、必然的に映画産業が発達したというところです。そこに人が集まって、いわゆるメジャースタジオというのが誕生して、100年ほどかけて映画の聖地になりました。
川口:
イギリスから入った人たちがどんどん西に開拓していって、ハリウッドはユダヤの人たちが最初にがんばって立ち上げたっていうイメージかな。業界にユダヤ人が多いよね。J・J・エイブラムスとかね。
大西:
その話、後でします(笑) フタを開けたらユダヤ人が取り仕切っているんですよね。ハリウッドって、なんだかキラキラしたイメージがないですか?私は少なくともそういうイメージがあったんですけど、このキラキラハリウッドがちょっと最近、元気がないというか……。何が起こっているかというと、不景気だったり、コロナの影響だったりがあるんですけど、あとは脚本家組合と俳優組合のWストライキですね。
川口:
ストライキは聞いたことあるよね。
大西:
なかなか映画が作れない状況が続いて、皆さん疲弊しちゃったというのもあって。それと平行して、ちょっと前から、「Oscar So White」って聞いたことありませんか?アカデミー賞を選んでいるのが白人男性ばかりだというようなことをいわれて。あとは「#MeToo」ムーブメントもありました。そういうことがあって、それに考慮しすぎた結果「ポリコレの行き過ぎ」みたいなところがあって。
川口:
アニメですら、必ずキャラクターにヒスパニックや黒人、アジア人を置いている。「ここ、なぜアジア人なの?」っていうのがあるよね。
大西:
こういうバックグラウンドから、一時期は特にすごかったんです。それを反映しすぎた影響で作品がヒットしないという状況も起きて。スーパーヒーローものもちょっと食傷気味で失速しているところもあり……。最新作はちょっと盛り返したということなんですけれど、『サンダーボルツ*』。
川口:
見た?『サンダーボルツ*』、どうでした?
(会場から「今年で1番、これまでのシリーズを知らなくても大丈夫」と太鼓判コメント)
大西:
オススメだそうです。
川口:
だったら、ちょっと盛り返したのかもね。
大西:
あとは記憶に新しいところで、トランプ大統領が外国製作の映画に100%の関税をかけると言い出して、世界中に波紋が広がっています。どうなることやらと思いつつ、私としてはそれ自体はたぶん問題にはならないだろうとは思うんですが。
トランプ大統領がアメリカ国外で作られた映画に100%の関税を課す意向を表明 - GIGAZINE

川口:
いつもの、一回上げておいて下げるやつだと。
大西:
はい。でも、じゃあなぜそんな発言をしたのかというと、ハリウッドがあまりにも疲弊しているのはお前らのせいだということなので、つながっていると思います。これまでの、ハリウッド映画が世界のマーケットを独占していたような時代から、いまはインターナショナル作品が元気というか。
川口:
そうだ、グローバルとインターナショナルの言葉の違いをちょっと説明してください。
大西:
あっ、なるほど。そうですね……ここで使っているグローバルはハリウッドから一方的に世界に向けて発信されているけれど、インターナショナルは世界中のあっちこっちに双方向に行ったり来たりするイメージです。あくまでイメージですけれど、アメリカって「全員、ビッグマックを食べろ!」みたいな言い方をしている気がしていて、それに食傷気味のマーケットが「いやいや、寿司もありますけど?」と返して、みなさんが「こういうのもあるんや、おいしいよね」となってきたような感じがあります。これはすごい変化で、この波はもっと続いていくんじゃないかという風に思っていて、アカデミー賞にも現れていると思います。『Flow』ってご覧になりました?
Flow - LV Trailer - YouTube

(会場反応あり)
大西:
見ましたか、見ましたか。猫ちゃんかわいかったですよね。日本でも公開されて1.6億円ぐらい行ったらしいですけれど、今年はこの5作品がアカデミー賞にノミネートされて、見事に『Flow』が受賞しました。これ、5年前だったら絶対に『野生の島のロズ』が取ったと思うんです。これはドリームワークス制作でユニバーサル配給なんですけれど、実際に作っていた方々も取ると思い込んでいたみたいです。ところが、どんでん返しで『Flow』が取りました。『Flow』はラトビアの監督の作品なんです。

川口:
「取ると思っていた」というのは、ハリウッドってちっちゃい「ムラ」なんよね。僕らなんかは、やっぱり外国人扱いなんです。ハリウッドは昔からユダヤ人がメインで、トップ5社を配給会社として使っていないとまずノミネートされないという歴史があったんです。新海誠作品も『君の名は。』とかがノミネートされなかったのは、配給がファニメーションだったから引っかからなかったわけ。僕らがソニーピクチャーズに配給権を預けていたら、もしかしたら引っかかったかもしれない。そういう政治的なものがある中なので、彼女が言った「『野生の島のロズ』が取るだろう」というのは、そういう空気があったということなんです。その中で『Flow』が取ったというのは、ボーターの人たちが心から投票したということだと。
大西:
ボーター、投票権を持つ人は、ここ5年ぐらいで10倍に増えたんですけれど、もともとは1000人に満たないハリウッドの「ムラ」の人たちが投票して決めていたというのがアカデミー賞だったんです。それが「Oscar So White」とかのムーブメントがあってバッシングを受けて、見直しがあり、いまは1万人ぐらいになりました。
川口:
日本人も結構増えたね。
大西:
40人ぐらいだったと思います。ノミネートされたら「No」といわない限りは投票権がもらえるので、本当に変わってきたと思います。過去10年の受賞作を見てもらうと、ずっとディズニー・ピクサーみたいなところが取ってきたんですが、2023年に『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』が取ったぐらいのところから「あれ?ちょっと変わってきたな?」というのがあり、その次が宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』、そして今年の『Flow』と、確実に潮目が変わってきているなという気がしております。
川口:
いわゆるインターナショナル作品が、ということで。

大西:
そういった作品に注目が集まっていると思います。実写でも『ゴジラ-1.0』も賞を取りましたし、ドラマでは『SHOGUN 将軍』がヒットしましたし、あと日本制作ではありませんがNetflixでは『BLUE EYE SAMURAI/ブルーアイ・サムライ』も日本モノです。劇場では『鬼滅の刃』も『すずめの戸締まり』もヒットしています。例年7月にロサンゼルスで開催されている「Anime Expo」というアニメイベントも、例年の来場者数は11万人ぐらいなのですが、2024年はなんと39万人ぐらい。
川口:
3倍超!
大西:
ちょっとよくわからない人の数になってきています。同時に日本アニメの海外リメイク、海外IPのアニメリメイクも盛んです。Netflixの『ONE PIECE』とか。
川口:
すごかったね。
大西:
あと『ワンパンマン』、『NARUTO』、それに『君の名は。』……。あれ、『君の名は。』リメイクしますよね?
「君の名は。」ハリウッド実写版をJ・J・エイブラムスがプロデュース、脚本は「メッセージ」のエリック・ハイセラー - GIGAZINE

川口:
脚本はいつ上がってくるんだろう、契約書交わしたのいつだろうという話で……ハリウッドの洗礼だよね。その間に『秒速5センチメートル』がトントン拍子ですーっと進んで、もうじき完成ですよ。新海誠作品の初実写化作品の座を『秒速』が勝ち取っちゃいました。まあ、ハリウッドは「一声10年」ということで、ちょっと日本とは違うんですよね。
劇場用実写映画『秒速5センチメートル』
https://5cm-movie.jp/
大西:
それに、『スター・ウォーズ』とか『スコット・ピルグリム』『ロード・オブ・ザ・リング』とかのアニメ化もあります。
川口:
ちょっと作品数が多すぎて、見きれないよね。日本のアニメだって見ないといけないし、「ジャンプ」も読まないといけないし。
大西:
そうですよねぇ……。そんな感じで、なんでもアニメ化すればいいというものではないんですよ。アニメは手法の1つであって、ジャンルというわけでもないし。ところが最近イヤなのが、ハリウッドの人たちと話をしていると「これアニメでできない?」って言われるんです。その裏にあるのは「アニメだったら安いでしょ」みたいなことで、めっちゃ腹立つんです。
川口:
腹立つ!
大西:
「実写なら200億かかっちゃうから、アニメでできない?」って。
川口:
「アニメなら300億だ!」と言ってたと伝えてください。
(会場笑)
大西:
わかりました、伝えておきます(笑)
川口:
ハリウッドのクリエイターたちも、押井守さんとか新海誠とか好きだったりするので、一回、日本のアニメスタイルで映画を作ってみたいと思っている人は多いんだよね。
大西:
そうやって考えてみると、さっき言っていた、いわゆる「グローバル市場」というものがもはや存在しないんじゃないか説、というのがありまして。

川口:
そういう世界、時代になったよね。昔はアメリカで大ヒットすればそれからフランスや日本でもヒットして、グローバルで1000億、2000億行くというのがあったんだけど。
大西:
ハリウッドが全部輸出する、一方通行の時代は終わったと思いますし、ボーダーレスな時代なので「この国がどう、あの国がどう」とかではなくて、もうちょっと趣味趣向に合わせないと。それこそ、新海誠監督のファンは世界中にいるんですよ。
川口:
いるね。新海ファンはみんな世界中で似ていると感じます。
大西:
つい最近もこういった作品が。『ナタ 魔童の大暴れ』。
『ナタ 魔童の大暴れ』本予告 4月4日(金)から日本語字幕版公開! - YouTube

川口:
これ、見た?
(会場あまり反応なし)
川口:
この作品、興行収入3000億円です。
(会場感嘆)
大西:
1作品でですよ。みなさん、さっき話に出てきたインドの市場のこと覚えてます?1年間で2000億円。日本も1年間の興行収入合計が2000億円。これは1作品で3000億円。
川口:
そしてこの作品は興行収入の2950億円以上は国内で当てている、つまり海外ではそれほどあたっていないという代物です。海外向けの作品の会議では「グローバル」という単語が前は出ていたんだけれど、もう中国ではディズニー・ピクサー作品はまったく当たらなくなっている。「全世界に向けて」ではなくどこかに寄せて作らないといけない。アメリカでヒットすれば全世界で当たるなんてことはないというのを、この作品は去年公開の作品ですけれど、思いっきりとどめを刺したなと思ってます。
大西:
私も「あ、これはいよいよ今年は」と思いました。
川口:
ハリウッドの人と話していて「グローバル」という言葉が出たときに、「あなたは『ナタ』を見たか」と。もうグローバル市場なんてないから、アジアに寄せるなり、仏教的な方向に寄せるなり、あるいはキリスト教に寄せる、マイノリティに寄せる、白人に寄せる……なにか意識しないと、ここから先の映画作りはやっちゃいけないんだなと思わせてた、最後の事件でした。で、これから映画祭に行くんだよね。
大西:
はい、カンヌ映画祭から、カンヌからアニメだけが独立したアヌシー映画祭。アヌシーはたまに日本の映画が受賞してますね。あとはサン・セバスティアン映画祭があります。
川口:
世界中の映画祭で一番飯がうまいのはサンセバだということで、業界関係者が一番行きたがる映画祭です。
大西:
サンセバ行きたいです、行ったことないです。
川口:
まこっちゃんは行ったことあるのよ、俺は留守番だった。
大西:
そして世界に映画祭があるんですけれど、これ、どうでしょう……?

(会場拍手)
川口:
アヌシーは湖なんだっけ?
大西:
湖と運河があります。
川口:
徳島も川があるよね。それにアヌシーも徳島も飯がおいしいし、水も酒もおいしい。そして、ここに来ればみんなに会える。東京では忙しくて会えない業界仲間も、ここならうろうろしているから会える。さっきもちょっとミーティングをしてきたんだけれど、アヌシーも一緒だよね。みんな集まるから商談ができる。
大西:
業界の人ばかりなので会えるし、落ち着いて話ができるなと思っていて。
川口:
だから、「マチ★アソビ」は日本のアニメーションのためにも守っていかなくちゃいけない……という1日でした。すっげえ、ちょうど1時間。
(大拍手)
川口:
ご清聴ありがとうございました。
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