もし人間の脳がもっと大きかったら?

人間の脳は他の生き物と比べてかなり大きい部類に入るほか、脳の重さと体重から算出される脳化指数も生き物の中で圧倒的に高く、知能の高さや言語能力の複雑さを生んでいます。それでは、「もし人間の脳がさらに大きかったらどのようになるのか?」という想像について、計算思考の開発と応用の専門家であるスティーブン・ウルフラム氏が解説しています。
What If We Had Bigger Brains? Imagining Minds beyond Ours—Stephen Wolfram Writings
https://writings.stephenwolfram.com/2025/05/what-if-we-had-bigger-brains-imagining-minds-beyond-ours/

人間の脳にはおよそ1000億個のニューロンがあり、人間が使うような構成言語を用いるにはそれほど多くのニューロンが必要だと考えられています。人間より多くのニューロンを持つ生物はいませんが、実質的にもっと多くのニューロンを持ったAIが登場する可能性はあります。ウルフラム氏によると、「もし人間の脳がもっと大きかったら」という想像について考えることは、AIの発展や基本的な計算の性質を探るために役立つとのこと。実際にGoogleの研究者は、大規模言語モデルの内部埋め込みと人間の脳が音声を処理する際の神経活動パターンには、顕著な類似性があると主張しています。
大規模言語モデルの処理順序が人間の脳の神経活動と類似しているとGoogleの研究者が主張 - GIGAZINE

ウルフラム氏はまず、「脳がより大きかったら、使用できる言語に影響があります」と指摘しました。人間の言語にはどれも約3万語の共通語があるとされており、その数が異なる言語間でおよそ一致しているのは、人間の脳の大きさによると考えられています。
私たちの日常生活は、3万語の共通語でありのままに描写することが十分に可能です。ただし、そこには「トラ」「ライオン」を「ネコ科」とくくるように、より一般的ないし抽象的に記述することが含まれます。もし人間の脳がもっと大きくて、扱える言語の数が大きく増えた場合には、現在の概念では説明できないものに直面することになります。つまり、人間よりも多くのニューロンに該当する計算能力をAIが獲得した場合、人間が理解できない概念を「創発」する可能性があります。

また、言語間の共通性がどの程度まで共通の歴史によるものであり、どの程度までが人間の感覚的世界体験の特殊性あるいは脳の構造の特殊性によるものかはまだ明らかではありませんが、人間の言語には共通して「曖昧さ」が含まれているとウルフラム氏は述べています。ウルフラム氏によると、その曖昧さはニューロンの数により制限されたものであるため、もし脳がもっと大きくなったら、単語を「明確な概念」として直接的に扱えるようになる一方で、単語を組み合わせて大まかなコミュニケーションを取る「文法的な能力」は浅くなると考えられるそうです。
ウルフラム氏は脳の役割について「大量の感覚入力を、少数の判断に変換すること」と表現しています。これはコンピューターにおけるアクチュエータの役割であり、1000億のニューロンと100兆のシナプスが、無数の刺激から何に反応し、次に何をすべきかを決定しています。脳が大きくなると、単純にワーキングメモリの容量が増えて、同時に処理できる情報の数が多くなります。
さらに、脳が大きくなると「より高次の抽象概念」を扱うことができるとウルフラム氏は述べました。基本的な知覚にはある程度の抽象化が含まれており、世界をありのままに捉えるのではなくフィルターをかけて認識しています。抽象化は何かを要約または簡約して表現することであり、事実上「先へ進む」ことを意味するとウルフラム氏は表現していますが、複雑な抽象化には概念的な困難があり、「最後の答えまで到達する」ことは人間の脳ではできません。しかし、より大きな脳であれば、抽象化のネットワークの中で「さらに遠くまで到達する」ことができます。ウルフラム氏は「高次の抽象化は、物理法則や宇宙の真実について、『これまで考えもしなかったこと』に関するものになるはずです」と語っています。

総合すると、私たちの脳が大きくなると計算能力が上がり、入力された情報から区別して記憶できる概念の数も増えます。その結果として、感覚を「トークン」に変換して理解する言語についても、処理できる概念の幅が増えるため、トークン化を介さずに構造的、視覚的な形式で「生の概念」を扱う思考やコミュニケーションが可能になります。特に抽象化能力については、脳が大きくなることで明確に質的な向上が期待されます。
ニューラルネットワークは基本的にただ計算をしているだけで、「心のような働き」はしていません。しかし、ニューラルネットワークに典型的な「脳のようなタスク」を実行させた場合、将来的に人間の脳よりも高い計算能力を持つニューラルネットが行う計算や抽象化、扱う言語について、人間は理解できないかもしれません。ウルフラム氏は「人間の心を超えた心が何ができるのかを完全に理解するには、私たち人間の知的体系全体の進歩が必要になるでしょう」と語りました。
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in ソフトウェア, サイエンス, Posted by log1e_dh
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