サイエンス

人間の心をコンピューターにアップロードする技術は実現するのか?


人の脳のコピーをコンピューターに作成する「マインドアップロード」という技術について、ジョージア工科大学心理学准教授のドブロミール・ラーネフ氏が論じました。

Can you upload a human mind into a computer? A neuroscientist ponders what’s possible
https://theconversation.com/can-you-upload-a-human-mind-into-a-computer-a-neuroscientist-ponders-whats-possible-250764

ラーネフ氏によると、マインドアップロードは理論的には可能とのこと。この分野での研究は、脳を理解し始めたばかりの段階ですが、ラーネフ氏は「科学は理論上の可能性を現実に変えてきた実績があります。ある概念が想像を絶するほど困難に思えるからといって、それが不可能だとは限りません。科学が人類を月へ導き、ヒトゲノムの配列を解明し、天然痘を根絶したことを考えてみてください。これらもまた、かつては実現不可能と考えられていたことです」と述べました。

知覚を研究する脳科学者として、ラーネフ氏はマインドアップロードがいつか現実になると確信しているものの、その実現はまだ先のことだと考えています。


そもそも、人の脳は既知の宇宙にあるものの中で最も複雑な物体だと考えられており、それをすべて再現することは困難を極めます。

また、アップロードされた脳は、それまでと同じ入力を必要とします。言い換えれば、外界へのアクセスが確保されていなければなりません。そのためには、視覚・聴覚・嗅覚・触覚などの感覚の再現や、体の動作・目の瞬き・心拍数の検出・概日リズムの設定など、無数の機能の再現が必要です。


もし、これらがない場合、アップロードされた人は真っ暗闇で音のない部屋に閉じ込められるような感覚を味わうことになりますが、人の感覚を奪うことは感覚遮断と呼ばれ、拷問の一種とみなされます。

事実、何からの原因で喉の渇きや空腹、痛み、かゆみといった身体からの信号を感知しにくい人は、精神的な問題を抱えることが多いそうです。

そのため、マインドアップロードが機能するには、その人の感覚とその人がいるデジタル環境のシミュレーションが極めて正確でなければならず、たとえわずかな歪みでも、深刻な精神的影響をもたらす可能性があります。

そして、そのような完璧なシミュレーションを実行するための計算能力はまだ存在せず、そのための科学的知識もないのが現状です。


マインドアップロードを成功させるためのもうひとつの課題は、人間の脳の完全な3D構造をスキャンし、マッピングすることです。これには、脳を高度な方法で詳細に観察できる、極めて高度なMRI装置か、それと同等の技術が必要です。しかし、現代の科学はハエの脳全体とマウスの脳のごく一部を対象とした脳マッピングのごく初期段階にさしかかったばかりです。

ラーネフ氏は「数十年後には、人間の脳の完全な地図が完成するかもしれません。しかし、ピンの頭よりも小さい860億個のニューロンと、それらの数兆個の接続のすべてを捉えたとしても、まだ十分ではありません。この情報をコンピューターにアップロードするだけでは、大した成果は得られません。なぜなら、それぞれのニューロンは常に機能を調整しており、その調整もモデル化する必要があるからです」と述べました。

脳がどのように物事を計算するかを知ることが、マインドアップロードの開発に役立つかもしれません。脳の働きが解明されれば、脳の生物学的特性をすべてシミュレーションせず、脳の本質的な部分だけをシミュレーションすればよくなるからです。これは、車の内部構造を知らないまま完全に複製するより、車の仕組みを理解してから新しい車を製造する方が容易なのに似ています。

しかし、このアプローチには脳がどのように思考を生み出すのか、つまり数千から数百万のニューロンの集合体がどのように連携して計算を行い、人間の精神を活性化させるのかを解明することが必要です。現代の科学が、その達成からどれほどかけ離れているかは、言葉にするのさえ難しいとのこと。


もうひとつの方法は、860億個のニューロンをひとつずつ人工ニューロンに置き換えることです。この方法なら、一気にマインドアップロードするよりも簡単ですが、科学者たちはまだたった1個のニューロンさえ人工ニューロンに置き換えることができていません。

課題は山積みですが、いいニュースもあります。まず、テクノロジーの進歩は飛躍的に加速しており、今後もコンピューティング能力と人工知能が飛躍的に発展することが期待できます。

また、マインドアップロードの研究資金が潤沢なのも追い風です。なぜなら、多くの億万長者が永遠の命を得るチャンスのために喜んで多額の資金を支払ってくれるからです。

ラーネフ氏はマインドアップロードが実現する時期について、「最も楽観的な予測では、今からわずか20年後の2045年とされていますが、今世紀末という予測もあります。ただ、私に言わせるとこれらの予測はどちらもおそらく楽観的過ぎます。もしマインドアップロードが今後100年以内に実現するとしたら、私は驚くでしょう。しかし、200年以内に実現するかもしれません。つまり、今生きている人の子どもの世代の中に、シミュレーションの中で永遠に生きられるようになる最初の人がいるかもしれないということです」と予想しました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
人格を脳からコンピューターに移す「マインドアップロード」に立ちはだかる3つの課題とは? - GIGAZINE

人の心をコンピューターにアップロードする研究はどこまで進んでいるのか? - GIGAZINE

脳をコンピューターに「アップロード」して生き続けるようになる日は来るのか? - GIGAZINE

精神を機械に移して永遠に生きることは可能なのか? - GIGAZINE

電脳化することで「デジタル上で人間は生き続けられる」と主張するマインドエミュレーション財団が登場 - GIGAZINE

・関連コンテンツ

in サイエンス, Posted by log1l_ks

You can read the machine translated English article Will the technology to upload a human mi….