肥満治療薬を服用すると肉や揚げ物が嫌いになる理由が判明しつつある

肥満治療薬「ウゴービ」や2型糖尿病治療薬「オゼンピック」として知られるセマグルチド、2型糖尿病と肥満症の治療に使われるチルゼパチドなどのGLP-1受容体作動薬を使用したことで、肉類や揚げ物、塩辛い食べ物が嫌いになってしまったとの経験談やそのメカニズムについて、科学雑誌のScientific Americanがまとめました。
Why Ozempic and Wegovy Might Change Your Favorite Food | Scientific American
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Scientific Americanの取材に応えた元料理レポーターのアリッサ・フレイザー氏は、食べるだけでなく自分で料理を作ることも好きで、まさに食が趣味でしたが、人気の減量薬のウゴービを使うようになってから食べ物への興味が薄れてしまったとのこと。特に肉からは家畜小屋のような臭みを強く感じられるようになったほか、フルーティな香りが気に入っていたワインですら青臭いと感じるようになってしまったとフレイザー氏は話します。
このような変化を経験したのはフレイザー氏だけではありません。オンライン掲示板の投稿や、日本の2型糖尿病患者を対象とした研究などでは、GLP-1受容体作動薬で食べ物全般への関心が失われたという意見や、薬のせいで食べ物が喜びではなく必需品でしかなくなったという意見が寄せられました。また、GLP-1受容体作動薬を服用している人はカロリーが高い加工食品などにお金をかけないというデータも報告されています。

GLP-1受容体作動薬が食べ物の好みを変化させる理由の一部は、その仕組みにあります。GLP-1受容体作動薬は、食べ物を食べたときに分泌されるホルモンであるGLP-1を模倣し、食欲調節に関与する脳領域や、食物に対する快楽反応を抑制する報酬経路に関与する脳の領域にあるGLP-1受容体に結合します。研究者たちは、この働きがGLP-1受容体作動薬で体重が減少する主なメカニズムであることを発見しており、食べ物の好みの変化もこれで説明できるのではないかと考える研究者もいます。
例えば、人間の食欲の制御を専門分野としているイギリス・リーズ大学の精神生物学者のジョン・ブランデル氏が主導した2017年の研究では、セマグルチドを服用した人は1日の食べ物の総摂取量が減っただけでなく、特に脂肪分が多くエネルギー密度の高い食品への食欲が減退し、それらの食品の摂取量が減ったことがわかりました。
これらの研究結果は、空腹か満腹かによって特定の食品への欲求が変化する可能性を示唆しており、ブランデル氏は「空腹の時は甘いものよりも肉や高タンパク質、あるいは高脂肪の食べ物が欲しくなる可能性が高くなりますが、満腹になると逆のことが起きます」と話しました。
ただし、満腹感だけでは説明がつかない経験をしている人もいます。プライバシーのための名前の一部を非公開にすることを希望したライターのシボーンさんは、ウゴービを服用するようになってからもフライドポテトのような脂っこい食べ物は好きなままですが、その代わりに20年間愛食してきたタイカレーのパネーンが食べられなくなったとのこと。また、2年間ウゴービを使っているというサラ・ストレビー氏は、卵やブロッコリーが食べられなくなったほか、シボーンさんと同様に辛い物が好きではなくなったので、家族から料理の味が薄すぎると文句を言われるようになってしまったと話します。

こうした意見から、GLP-1受容体作動薬が味覚に直接作用している可能性も示唆されていますが、その理由は複雑です。過去の複数の研究では、体重が重い人は風味をあまり強く感じない傾向があることがわかっており、その影響でより大きな感覚報酬を得るために食事量が増える可能性が示されました。
また、内分泌学会(The Endocrine Society)の2024年の年次会議で発表された小規模な研究では、セマグルチドを服用している女性はプラセボを服用している女性と比較して味覚が敏感なことや、脳スキャンにより甘い物を味見した際の感覚報酬の処理に関与する領域の活動が増加していることが示されています。これらの知見から「太っている人は味を感じにくいためたくさん食べてしまうが、GLP-1受容体作動薬により味覚が鋭敏になると、その影響で特定の食べ物が嫌いになる」という説を提唱する研究者もいます。
その一方で、2025年3月に査読付き科学誌のPhysiology & Behaviorで発表された新しい論文では、GLP-1受容体作動薬によって5つの基本味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)が全て低下することや、吐き気を始めとする薬の副作用は味覚や嗅覚が優れている人ほど強いことが示されました。つまり、GLP-1受容体作動薬が味覚を鈍くするのか、鋭くするのかについては、相反する研究結果が報告されているということです。
新しい研究論文の著者のひとりであるペンシルバニア大学のリチャード・L・ドウティー氏は、「味蕾(みらい)にあるGLP-1受容体が味の感じ方の変化に関係しているのではないかと考えていますが、実際にそうなのかは分かっていませんので、さらに研究を重ねる必要があるでしょう」と述べました。

ウゴービとオゼンピックの製造元である製薬会社のノボノルディスクは、Scientific Americanからのコメント要請に応じていません。また、チルゼパチドを開発し、「ゼップバウンド」との商品名で製造しているイーライリリーの広報担当者はScientific Americanに、「GLP-1受容体作動薬を服用している人の食物の味覚や嗜好の変化に関する共有可能なデータはありません」と述べた上で、そのような副作用を経験した人は医療提供者に相談する必要があると付け加えました。
薬が満腹感や味覚に与える影響は、食べ過ぎを防ぐ上で歓迎すべき変化と考える人がいる一方で、複雑な心境を抱える人もいます。フレイザー氏は「料理をしなくなったばかりか、食べ物にあまり興味を持てなくなっています。食べたいものといえば甘いものだけですが、それも一口か二口食べて、もうやめようと思ってしまいます。それでも、減量の精神的負担が大幅に軽減されたので、私にとってはそれだけの価値がありました」と話しました。
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