サイエンス

残業のある労働文化が出生率向上のための取り組みを台無しにしている可能性


ほとんどの先進国では出生率の減少とそれに伴う少子高齢化が大きな課題となっており、政府は出生率向上のための政策を打ち出しているものの、出生率の大幅な向上といった目立った効果はみられていません。出生率減少に悩む中国で行われた研究では、「残業の多い厳しい労働文化」が出生率向上のための取り組みを台無しにしている可能性があると示されました。

Reasons for the continued decline in fertility intentions: explanations from overtime work: Biodemography and Social Biology: Vol 69 , No 4 - Get Access
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/19485565.2024.2422850


A demanding work culture could be quietly undermining efforts to raise birth rates
https://www.psypost.org/a-demanding-work-culture-could-be-quietly-undermining-efforts-to-raise-birth-rates/

20世紀後半に人口の爆発的増加に直面した中国では、原則として夫婦1組につき子どもは1人までとする一人っ子政策が1979年から2014年にかけて導入されました。これにより人口の増加を抑制することに成功しましたが、今度は急激な少子高齢化が発生したことから、中国政府は一人っ子政策を廃止して多子世帯に補助金を給付するなど、出生率を向上させる取り組みを進めています。

しかし、これらの出生率向上政策は限られた成果しか上げられておらず、今後も中国の人口減少は続く見通しです。中国人が子どもを持つ意欲を失っている原因としては、経済的な事情や住居費の高騰などがよく挙げられていますが、中国の南開大学河南工業大学の研究チームは「長時間労働による時間の不足」も原因ではないかと考えて研究を実施しました。

研究チームは、全国の2万人以上を対象として2020年に実施された大規模調査・中国家庭追跡調査(CFPS)のデータを用いて分析を行いました。CFPSでは人口統計や雇用状況、収入、健康、家庭生活に関する詳細な情報を収集しており、その中には労働者が報告した「週の労働時間」と「残業の形態」、そして「今後2年以内に子どもを持つ意欲」についてのデータも含まれていたとのこと。


研究では、週に40時間以上働いている人は国際労働機関が定める国際労働基準と中国の労働法に基づいて「残業している」と分類されました。研究チームは年齢・性別・民族・収入・婚姻状況・居住地域などさまざまな要因を考慮し、残業が子どもを持つ意欲にどのような影響を及ぼしたのかを分析しました。

分析の結果、残業は子どもを持つ意欲に対して、統計的に有意な強い悪影響を及ぼしたことが判明しました。このパターンは分析したほぼすべての地域に当てはまり、標準的な週40時間を超えて働く時間が長ければ長いほど、2年以内に子どもを持つ予定だと答える割合は低くなったと報告されています。


この傾向は特に週40~50時間の労働をしている人々で顕著であり、労働時間が週40時間を超えると急激に子どもを持つ意欲が減少していました。一方、週の労働時間が60時間を超える人々ではより多様な反応がみられたものの、やはり全体的に子どもを持つ意欲は低下していたとのことです。最も子どもを持つ意欲が高かったのは労働時間が週0~20時間の人々でした。

また、研究では残業の種類も重要であることが示されました。週末や夜間に定期的に働いている人、または24時間年中無休で緊急連絡に対応する必要がある人は、子どもを持つ意欲が有意に低かったとのこと。これらの勤務形態は日々のルーチンを混乱させ、パートナーや家族と過ごす時間を減らし、勤務時間外でも精神が仕事から離れにくくなり、慢性的な疲労を引き起こす可能性があります。


子どもを持つ意欲に対する残業の悪影響は、男性よりも女性で強くみられました。これは、女性の方が男性よりも多くの家事や育児を担う傾向があるため、長時間労働が特に女性へ強い負担をかけている可能性を示唆しています。また、未婚の人は既婚の人よりも残業の悪影響が強かったそうで、これはまだ結婚していないため、子どもを持つかどうかを自分の意思だけで選択しやすいからではないかとみられています。

特定の労働環境が仕事と家庭の対立を緩和できるかどうかを調べたところ、従業員が仕事の開始時間と終了時間を選択できる柔軟な勤務形態は、子どもを持つ意欲にプラスの効果をもたらすことがわかりました。もうひとつの重要な要素は出産保険であり、これらの福利厚生が出産の経済的・心理的負担を軽減してくれる可能性があるとのことです。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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