宇宙飛行は睡眠の質と量を悪化させるかもしれない

宇宙飛行士は宇宙でのミッション中にさまざまな課題に直面しており、その中には「宇宙空間では睡眠パターンが乱れやすい」というものも含まれます。実際に宇宙空間に滞在した宇宙飛行士の睡眠パターンを分析した研究では、宇宙飛行が睡眠の質や量にさまざまな悪影響を及ぼすことが示唆されました。
Changes to human sleep architecture during long‐duration spaceflight - Piltch - Journal of Sleep Research - Wiley Online Library
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jsr.14345

Astronaut sleep study reveals how spaceflight alters rest patterns
https://www.psypost.org/astronaut-sleep-study-reveals-how-spaceflight-alters-rest-patterns/
睡眠は身体の健康や感情の調節、認知能力にとって非常に重要であるため、宇宙ミッションのようなリスクの高い環境では睡眠の質と量を確保することが必要です。しかし、多くの宇宙飛行士は宇宙飛行中に睡眠パターンが乱れたと報告しており、平均睡眠時間が短くなる傾向にあることもわかっています。その理由にはストレスや微小重力、概日リズムのずれ、宇宙船内の環境といった要因があると考えられています。
そこでハーバード大学やNASAの研究チームは、1996年~1998年にかけて平均180日をロシアの宇宙ステーション「ミール」で過ごした宇宙飛行士から収集したデータを分析し、地球上で過ごしている時と宇宙飛行中の睡眠パターンの違いを調べました。
被験者となった5人はいずれも男性宇宙飛行士であり、打ち上げ時の平均年齢は43.5歳で、目と体の動きに基づいて睡眠段階を測定するナイトキャップを装着して就寝する訓練を受けました。宇宙飛行士からは宇宙ミッション前に平均22.4泊、ミールの滞在中に平均16.6泊、宇宙ミッション後に平均12.2泊の睡眠データが収集されました。また、宇宙飛行士らはミッション中もモスクワ時間に合わせ、一貫した24時間のスケジュールに沿って活動しており、日常生活に大きな変更はなかったそうです。
論文の共著者であり、NASAのエイムズ研究センター疲労対策研究所所長を務めるエリン・フリン=エバンス氏は、「これらのデータは、宇宙飛行士がいつレム睡眠またはノンレム睡眠を経験しているのかを判断するため、眼球運動の変化を測定するシステムを使用して収集されました。これらの睡眠段階は脳内のさまざまなプロセスを表しています。たとえば、ステージ3以降の深い睡眠は脳内の老廃物の除去に関連しており、レム睡眠とステージ2の睡眠は、特に学習と記憶の定着に関連しています」と述べています。

データを分析した結果、宇宙飛行士らは地上で過ごしている時と比較して、宇宙飛行中に大きな睡眠パターンの変化を経験することが明らかになりました。宇宙飛行士は、地球上よりも宇宙飛行中の睡眠時間が平均で約1時間短くなり、1晩の総睡眠時間は飛行前の6.7時間から5.7時間に減少しました。
また、寝床の中にいる時間のうち睡眠している割合を示す睡眠効率は、飛行前の89%から73%へと大幅に低下。さらに、入眠するまでの時間は宇宙空間になると約2倍に伸びたほか、入眠後の覚醒度も約3倍になったと報告されています。
睡眠の段階に着目すると、宇宙飛行中はレム睡眠とノンレム睡眠の両方が減少することもわかりました。飛行前には睡眠時間のうち26.4%をレム睡眠が占めていましたが、宇宙飛行中はその割合が19.6%にまで減りました。宇宙ミッションの過程で、レム睡眠の時間は徐々に飛行前と同程度まで回復しましたが、その代わりにノンレム睡眠の時間が減ってしまいました。
論文の筆頭著者でありハーバード大学に在籍するオリバー・ピルチ氏は、「ベースラインと比較して、宇宙飛行中の睡眠構造には顕著な変化がみられ、そのうちいくつかはミッション期間中に変化しました。私たちの発見は、睡眠の継続性の問題に焦点を当てた先行研究と一致していました。宇宙飛行中、被験者らは同じ時間寝床にいるにもかかわらず、睡眠効率が著しく低下することがわかりました」とコメントしています。

なお、一連の研究では宇宙飛行士が地球に戻った後、睡眠パターンは飛行前と同程度に戻り、被験者の睡眠パターンに持続的な影響は出なかったとのことです。
フリン=エバンス氏は、「睡眠は地球上でも宇宙でも、最適な認知機能を発揮するために重要です。宇宙飛行は宇宙での睡眠に影響を及ぼすかもしれません」と述べ、結果を検証するためにさらなる調査が必要だと主張。今後はより大きなサンプルサイズで、脳波を使った睡眠研究を行いたいと考えていると述べました。
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in サイエンス, Posted by log1h_ik
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