サイエンス

周囲の栄養を食い尽くす「人工脂肪細胞」をつかってがん細胞を兵糧攻めすることに科学者らが成功


科学者らがエネルギーを蓄える「白色脂肪細胞」をカロリーを消費する「褐色脂肪細胞」に変換し、がん細胞が生き残るために必要な栄養素を奪って増殖を抑制させることに成功したことを報告しました。

Implantation of engineered adipocytes suppresses tumor progression in cancer models | Nature Biotechnology
https://www.nature.com/articles/s41587-024-02551-2


Scientists Just Found a Way to Starve Cancer Using Fat Cells
https://scitechdaily.com/scientists-just-found-a-way-to-starve-cancer-using-fat-cells/

カリフォルニア大学サンフランシスコ校のハイ・グエン氏らによると、人の体内で脂肪を燃焼して熱を生成する「褐色脂肪細胞」が、がんを抑制するということが先行研究でわかっていたそうです。マウスを使った実験では、寒さが褐色脂肪細胞を活性化させ、がん細胞が必要とする栄養素を奪うことでがん細胞を飢餓状態にさせることがわかっていましたが、一般的にがん患者は病状の進行と共に健康状態も悪くなるため、人間の体を冷やして治すという手法は現実的ではありませんでした。

そこでグエン氏らは褐色脂肪細胞を使うというアイデアに着目し、体を冷やさなくても十分にカロリーを消費するよう褐色脂肪細胞を設計することで、安全にがん細胞を飢餓状態に陥らせることができるのではないかとの仮説を立てました。


まずグエン氏らは遺伝子編集技術の「CRISPR」を用い、人間の体脂肪を構成しエネルギーを蓄えている「白色脂肪細胞」を褐色脂肪細胞に変換しました。次に褐色脂肪細胞に発現してエネルギー消費を促す遺伝子「UCP1」を調整し、グルコースと脂肪酸の使用量を増加させるように操作した褐色脂肪細胞を、ガン細胞と一緒にシャーレに入れて培養しました。その結果、褐色脂肪細胞は2種類の乳がん細胞、結腸がん細胞、膵臓がん細胞、前立腺がん細胞の増殖を著しく抑制したことがわかりました。

次にグエン氏らはマウスにがん細胞とヒト脂肪オルガノイドを移植して観察しましたが、ここでも同様にがん細胞が飢餓状態に陥っていることがわかったそうです。

グエン氏らは今回の手法がヒト組織でどのように作用するかを調べるため、乳がん専門医であるジェニファー・ローゼンブルース医学博士とチームを組み、ヒトの乳がん患者から採取した脂肪を使ってシャーレで培養する実験を行いました。結果はやはり、褐色脂肪細胞が乳がん細胞の量を上回りました。


グエン氏らによると、がん細胞は種類ごとに「栄養素の好み」があるそうで、がん細胞に合わせて特定の栄養素を食べるように調整した褐色脂肪細胞を使うと効果が高まる可能性があるそうです。例えば肝臓がん細胞の一種はグルコースが不足するとウリジンを求め始めますが、グエン氏らがウリジンだけを食べるように脂肪を調整したところ、この膵臓がん細胞を簡単に打ち負かすことができたといいます。

今回の手法で褐色脂肪細胞を生成するには、まず患者から白色脂肪細胞を抽出しなければなりませんが、これは形成外科手術で用いられる「脂肪吸引」のアプローチで容易に解決できるそうです。

グエン氏らは「脂肪細胞は研究室で簡単に操作でき、安全に体内に戻すことができるため、がんはもちろんその他の細胞治療に活用することができます。脂肪細胞は環境との相互作用が少ないので、細胞が体内の別の場所に漏出して問題を起こす心配はほとんどありません。特定のがんやがん患者に対して、それぞれに合わせた治療のアプローチを取れる可能性があります」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1p_kr

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