イギリス経済を支配しつつある「プライベート・エクイティ」とは何なのか?

未公開企業の株式や不動産に投資する投資家や投資ファンドのことをプライベートエクイティと呼びます。イギリス経済はいまやプライベートエクイティに牛耳られていると、アメリカ経済紙のBloombergが以下のムービーで指摘しています。
How Private Equity Ate Britain - YouTube

Bloombergによると2020年にイギリスがEUから離脱したブレグジット以降、プライベートエクイティがかつてないペースでイギリスに流入し、多くの有名店を買収しているとのこと。

イギリスが新しい経済状況に適応する中で、プライベートエクイティの急増はイギリス経済にとって大きな問題になる可能性を抱えています。なぜなら、ほとんどのプライベートエクイティは債務に依存しているためです。

例えば、10万ポンド(約1900万円)を頭金として支払い、残りの40万ポンド(約7600万円)を銀行から借り入れることで、50万ポンド(約9500万円)の店舗を購入するとします。さらに、5万ポンド(約950万円)で店舗を改装します。

そして、3年後に80万ポンド(約1億5200万円)で売却すれば、それまでかかったコストと銀行への返済を引いた分が利益となります。

しかし、購入者ではなく、店舗自体に借入金の返済責任を負わせるケースもあります。これはレバレッジド・バイアウトと呼ばれ、大規模な企業を買収する際などに使われます。買収資金は債務で調達し、企業が破綻しても全額現金で支払った場合に比べて損失は少なくて済みます。

例えば、イギリスのスーパーマーケットチェーンであるモリソンは長年家族経営で、イギリス大手4社の1つでした。ブレグジット直後、モリソンの企業価値はアメリカ同業他社と同等でしたが、新型コロナウイルスのパンデミックで形勢が変化。パンデミックの後、アメリカのスーパーマーケットチェーンの企業価値は回復しましたが、モリソンは回復しませんでした。

企業価値が低いままだったことで、モリソンは外部の買収者にとって魅力的な存在になりました。2021年にイギリスでロックダウンが宣言された直後、プライベートエクイティの間でモリソンの入札戦が勃発。最終的にアメリカの投資会社であるクレイトン・デュビリエ&ライス(CD&R)が勝利を収め、約70億ポンド(約1兆3300億円)でモリソンを買収しました。モリソンの評価額は2021年前半で45億ポンド(約8550億円)で、CD&Rが提示した買収額はそれを大きく上回っていますが、低金利によって多額の借入が容易だったため、この価格でも投資価値があると判断されました。

モリソンの例のように、ブレグジット後のイギリスでは、プライベートエクイティが大規模に流入しました。2016年から2023年の間にプライベートエクイティがイギリス企業の買収に費やした額は合計で約2000億ドル(約31兆円)だとのこと。これはドイツ企業やフランス企業と比較しても圧倒的に多い額です。

ブレグジット後、イギリス企業は全般的に割安になりました。イギリス企業は1ドル(約155円)の利益に対して平均11ドル(約1700円)の価値しか与えられていないのに対し、アメリカ企業は20ドル(約3100円)の価値を与えられています。

モリソンの場合、買収に使用された債務は約66億ポンド(約1兆2500億円)に上りました。しかし、CD&Rがモリソンを買収した当時は金利が低かったのですが、その後に金利は上昇。モリソンの債務の約半分、約30億ポンド(約5700億円)が金利上昇の影響を受け、債務の返済がより高額になりました。

当時、モリソンは同業他社と価格競争を繰り広げていました。金利上昇によって、毎年数億ポンド(数百億円)もの利息支払いが追加で必要となったため、モリソンは価格競争に対抗できませんでした。

その結果、モリソンは業界4位の座から転落してしまったとのこと。

Bloombergは、この問題が多くのプライベートエクイティ所有企業に影響を及ぼしていると指摘しています。イギリスでは、プライベートエクイティが支援する企業が190万人を雇用し、そのサプライヤーがさらに130万人を雇用しています。これらの取引が失敗すると、消費者への商品価格上昇や雇用喪失など、現実の影響が出ます。

イングランド銀行は、プライベートエクイティが所有するイギリス企業の増加と債務レベルの上昇を懸念しています。しかし、ブレグジット後のイギリスは外部投資を必要としており、政治家たちはプライベートエクイティへの規制を強化することが難しい状況にあります。そのため、記事作成時点で野党である労働党が政権を獲得しても、この問題への対応は慎重にならざるを得ないだろうとBloombergは述べました。

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