サイエンス

嗅覚の喪失はパーキンソン病やアルツハイマー病の初期兆候である可能性


匂いは記憶や感情と強く結び付いており、実際に扁桃体や海馬を含む大脳辺縁系は記憶や感情だけでなく嗅覚の処理も担っています。この嗅覚の低下と喪失が、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患の初期症状として表れる可能性が指摘されています。

Why Loss of Smell Can Be an Early Sign of Brain Diseases Like Alzheimer’s.
https://nautil.us/loss-of-smell-may-be-an-early-sign-of-brain-diseases-354483/


人間は鼻にある嗅球で匂いの元となる分子を検知し、大脳辺縁系で処理を行うことで嗅覚を得られます。嗅覚障害のメカニズムは大まかには解明されていますが、根本的な部分ははっきりとわかっていません。

人間の短期記憶は25歳でピークを迎えるそうですが、嗅覚は40歳前後にピークを迎え、その後徐々に低下し始めるそうです。また、嗅覚には性差があることが2019年の研究で示されており、嗅覚細胞の数は女性の方が多く、加齢に伴う嗅覚の低下は男性の方が大きいそうです。


また2014年に発表された論文では、1162人の健康な高齢者を対象とした4年間にわたる縦断的研究が行われています。研究結果として、嗅覚検査のベースラインスコアが最も低い人では4年間にわたる死亡率が45%だったのに対して、最も高いスコアを持つ人では18%だったことが報告されました。また、嗅覚を失った状態で生活している人の7割が、自分が検査を受けるまで嗅覚を失っていることに気付いていないそうです。

嗅覚障害は他にもさまざまな病気の初期兆候としても知られており、病気の進行と認知障害のマーカーだと考えられています。実際にハンチントン病多発性硬化症、軽度の認知障害などの神経変性疾患の初期兆候であることを示す証拠も増えつつあるとのこと。

さらに、嗅覚障害は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の症状で発症することが2022年に発表された研究で示されています。この論文を発表した研究チームは、COVID-19や局所的な炎症プロセスで欠陥タンパク質が凝集して起こる神経細胞の変性が嗅覚障害の原因だと主張しています。


また、研究チームは嗅球と嗅覚神経が存在する延髄はパーキンソン病で初期発症が見られる部位で、ここはCOVID-19での感染でも炎症が見られる場所であるとのこと。そのため、パーキンソン病もCOVID-19も、タンパク質凝集による神経変性が原因で嗅覚障害が初期症状として表れる可能性を研究チームは指摘しています。

パーキンソン病の初期症状として嗅覚障害が出ることは、2023年5月に発表された研究でも指摘されています。

パーキンソン病の早期診断につながるブレイクスルーをマイケル・J・フォックスの財団が支援する研究チームが発表 - GIGAZINE


嗅覚についてはまだはっきりとは解明されておらず、どういう原理で嗅覚障害が起こるのかという原理も特定されていません。しかし、多くの研究で嗅覚障害がさまざまな神経変性疾患の初期症状として表れていることから、嗅覚障害が早期発見のきっかけになる可能性は十分にあります。ローマ・サピエンツァ大学の生化学・細胞生物学研究所の研究員であるクリスチャン・バルバト氏らの研究チームは、「嗅覚と分子経路の生物学的基盤の重要性を強調することは、神経保護および治療戦略を改善するための基礎となる可能性があります」と述べています。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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