The Tendency for Interpersonal Victimhood: The Personality Construct and its Consequences
(PDFファイル)https://www.researchgate.net/publication/341548585_The_Tendency_for_Interpersonal_Victimhood_The_Personality_Construct_and_its_Consequences
Unraveling the Mindset of Victimhood - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/unraveling-the-mindset-of-victimhood/
自分が被害者意識を持っているかどうかは、以下の4つの項目によって測定できるとのこと。以下4項目に対して「全然当てはまらない」を1、「完全に当てはまる」を5として、5段階で評価を行ってください。
1:自分を傷つけた人が「不当な仕打ちをした」と認識することは、自分にとって重要である。
2:自分の周囲の人に対する接し方は、周囲の人が自分に対する接し方よりも良心的・道徳的である。
3:自分に近しい人が自分の行動によって傷ついた時、自分の行いが正しいものだったと明示することが重要である。
4:他人が自分に対して行った不当な行為について考えるのをやめられない。
全ての質問に対して4~5の評価を行った時、その人は心理学的に「対人関係において被害者意識を持つ傾向が高い」といえるとのこと。
イスラエルのテルアビブ大学に在籍する心理学者Rahav Gabay氏ら研究チームは、「被害者意識の傾向」を、「自分が被害者だ継続的に感じ、それが多くの人間関係において一般化されること。結果として、自分のアイデンティティの中心が『自分は被害者だ』という意識になること」と定義しています。

また研究チームによると、「被害者意識の傾向」が以下4つの要素から構成されるとしています。これは最初の4項目を端的に言い換えたもの。
1:被害者の認識を常に人に求めている
2:道徳的エリート感
3:他人の痛みや苦しみに対する共感が欠けている
4:過去の被害経験をしばしば反すうする
研究者は被害者意識が作られる過程において「トラウマ」と「被害を受けたこと」は異なるものだとしています。というのも、被害者意識は実際に深刻な被害やトラウマがなくても作られるものであるため。その逆についても言え、深刻なトラウマを受けたからといって必ずしも被害者意識を持つわけではないことも研究者は指摘しています。被害者意識を持つことと実際に被害を受けることとでは、心理的プロセスやその結果が異なるためです。
4項目を具体的に解説すると以下の通り。
◆1:被害者の認識を常に求めている
自分の苦しみの理解を常に求めることは、トラウマの反応として一般的です。トラウマを経験すると人は「世界が更正で道徳的な場所である」という考えを受け入れられなくなります。苦しみを受け入れてもらうことで、世界が公平であり公正な場所だという自信を再度取り戻すことができるとのこと。

また、加害者が過ちを認め、罪悪感を示すことを求める被害者にとって、この反応は当然のものです。これまでの(PDFファイル)調査で「自分が受けた経験」を確認することがトラウマや被害意識からの回復に重要だということが示されています。
◆2:道徳的エリート感
道徳的エリート感は深く傷ついた感情から身を守り、肯定的な自己イメージを維持するためのメカニズム。強いストレスを受けた人は自分の攻撃性や衝動性を否定し、自分を他人に投影させる傾向があります。他人を脅威と受け取り、自分は迫害された、弱く、道徳的な人間だと認識します。自分を「聖なる人」、他人を「純粋な悪」とわけることで、自己イメージを守っているわけです。ただし、その結果として自己の成長が阻害され、自分と世界をより複雑な視点で見ることができなくなります。
◆3:他人の痛みや苦しみに対する共感が欠けている
「自分に近しい人が自分の行動によって傷ついた時、自分の行いが正しいものだったと明示することが重要である」という項目で高い点数を記録した人は、「自分は被害者である」という考えしか頭になく、人が苦しんでいるということに気づきません。(PDFファイル)過去の研究では、不当な扱いを受けた人や不当な扱いについて思い出した人は、他人の苦しみを無視して、「自分は攻撃的に、自己中心的に振る舞っていい」と考える傾向があることが示されています。このような人は、結果的に周囲に対して助けを求められないことも多いそうです。またグループ内で被害者意識が増加すると、敵対グループに対する共感が減少し、争いを増加させることも研究から示されています。

◆4:過去の被害経験をしばしば反すうする
過去の被害経験をしばしば反すうする傾向が高い人は、解決策を考えるのではなく、対人関係で受けた不当の原因と結果について話します。ただし、このような反すう行為により人は復習の企てるようになり、許しへのモチベーションを減少させるとのこと。また集団レベルの分析から、被害を受けた集団はトラウマの原因となった出来事を何度も反すうすることがわかっています。例えばユダヤ人が通うイスラエルの学校では、年々、ホロコーストの教材やカリキュラムが増加しています。現代のユダヤ人はホロコーストの直接的な被害者ではありませんが、イスラエル人はホロコーストに心を奪われ、再びホロコーストが起こることを恐れている、と研究者は指摘します。
対人関係の争いが起こると、人は肯定的で道徳的な自己イメージを維持しようとする結果、両当事者が全く異なる主観的事実を生み出す可能性があります。つまり、不当な行いをした人は、不当な行為を過小評価し、被害者は受けた行為をより不道徳かつ意図的で深刻なものと認識する傾向があります。このような考え方は人の認識方法や記憶方法に根本的な影響を与えます。研究者は、「解釈バイアス」「帰属バイアス」「記憶バイアス」の3つを被害者意識の傾向を特徴付けるものと示しています。
・解釈バイアス
解釈バイアスには2種類あり、1つは「人間関係における攻撃性」に関するもの。研究者らは、被害者意識の傾向が高い人は、「助けがない」といった深刻度の低い攻撃性も「人間性に対する攻撃」といった深刻度の高い攻撃も、より深刻なものとして受け取ります。
2つ目の解釈バイアスは将来的に傷つくことに対するバイアスで、被害者意識の傾向が高い人は、自分の部署に新しいマネージャーが来た時に、まだ会っていない状態でもマネージャーを「思慮が足りない」「助けてくれないだろう」と考えやすいことが研究で示されています。

・帰属バイアス
また被害者意識の傾向が高い人は不当な行為を行った人にネガティブな意図があると考える傾向が強く、傷つく出来事があった時に生じた「否定的な感情が持続する時間」や「強さ」を実際より感じやすいとのこと。2005年には人が「人間関係で起こったひどい出来事が意図的だった」と感じる程度と、「その出来事がどのくらいひどかったと認識しているか」が関連していることが示されており、これも帰属バイアスの存在を示す研究結果と一致します。
・記憶バイアス
上記に加え、被害者意識の傾向が高い人は、攻撃的な行動や傷ついたという感情、否定的な感情を表す言葉を思い出しやすいとのこと。対人関係における被害者意識の傾向が高い人は、肯定的な解釈をあまりせず、肯定的な単語を思い出しづらいことがわかっており、このことから「被害者意識は否定的な刺激により活性化する」と考えられています。
上記に加え、被害者意識の傾向が高い人は、人に対する「許し」をあまり行わず、復讐に対して積極的だとのこと。
◆被害者意識はどこから来るのか?
個人レベルで考えると被害者意識が生まれる原因はいくつも考えられます。しかし、研究者らは、愛着行動における「不安型」が被害者意識と強く関係しているとみています。不安型は相手に対して承認と継続的な確認を求める傾向にあり、自分の価値に疑問を抱かないように行動します。一方で不安型は他人から拒絶されることを予想しつつ、自分の価値や自尊心が相手次第だと感じています。このため、相手から注目・思いやり・評価などを得ることにより、不安定な人間関係を安定させようとするわけです。
しかし、現代では政治的にも文化的にも被害者意識をアイデンティティとして持つ個人やグループが多く存在します。この研究はユダヤ教徒のイスラエル人をサンプルとしており、世界中全ての人に当てはまるわけではない可能性があるとのことですが、覚えておくべきなのは、社会化というプロセスの中で被害者意識をインプットされるということは、同様に、社会化の中で「成長する考え方」をインプットすることも可能ということ。トラウマを負ったとしても、人は必ずしも被害者意識を持つようになるわけではありません。トラウマを負っても、その経験をいかし、同様の経験を持つ人に希望を与えることも可能だと研究者は述べています。
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集団レベルでみたときも、「グループ外の人々に憎しみを持たず、グループ内で健全な誇りを持つことは可能」だと学ぶことができれば、ものごとは大きく変わるはず。現実を可能な限り明確に見ることで、自分あるいはグループ外の人々が必ず悪であるとは限らず、根本的には同じものを求める人間であると気づくことができます。これは、長期的な変化を起こす上での重要なステップであると研究者は述べました。