映画「インセプション」の夢の中で天井と床が逆転するホテル内の戦闘シーンはどうやって撮影されたのか?

クリストファー・ノーラン監督&レオナルド・ディカプリオ主演の映画「インセプション」では冒頭から黒服の敵と戦ったり、雪山で兵隊と戦ったりするなど数々のバトルシーンが登場しますが、中でも印象的なのは無重力になったホテルの廊下を舞台に敵と戦うシーンです。この無重力空間での撮影をどのように行ったのかを解説するムービー「Inception Hallway Dream Fight - Art of the Scene」が公開されています。
Inception Hallway Dream Fight - Art of the Scene - YouTube

映画「インセプション」では、他人の夢に深く潜り込んでアイデアを盗み取るスパイのコブ(レオナルド・ディカプリオ)が、アイデアを盗むのではなく「植え付ける」という高難度のミッションに仲間と共に挑みます。

「インセプション」は1億6000万ドルという巨額の製作費を投じて、クリストファー・ノーラン監督のオリジナル作品として制作されました。

制作費用は、ノーラン監督の前作「プレステージ」の4倍にあたります。

映画の中でも「一体これはどうやって撮影したのだろう……?」と気になる印象的なシーンが、仲間の1人であるアーサー(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)がホテルの廊下で壁をダッシュして……

続けざまに今度は天井に立って、敵と戦うバトルシーン。

以下のスケッチは、ホテルでの戦闘シーンのコンセプト画で、ノーラン監督が2002年に描いた物とのこと。

このコンセプト画をワーナーの重役たちが気に入り、映画化が決定。ノーラン監督は「数ヶ月で脚本を完成させます」と宣言したものの、実際には脚本制作に8年もの歳月がかかったそうです。

8年越しで脚本が完成し、主演がレオナルド・ディカプリオに決まった後、映画制作が本格的に始まりました。

夢の階層と物語の進行を表した、ノーラン監督手書きのイラストをもとに夢の世界を現実に起こしていきます。

数ある夢の世界のシーンの中でもホテルの廊下で乱闘を繰り広げる場面は、ノーラン監督がこれまでに制作したどの映画とも異なる手法で撮影されたとのこと。

このシーンの撮影が難しかった理由は、ノーラン監督の「アンチ・デジタル撮影」の考え方があったため。

3D撮影やCGI加工が普及した現在でも、ノーラン監督はフィルムを使った撮影にこだわって映画を撮り続けています。

無重力空間のシーンをCGではなく実際に映像で撮る手法としては、NASAが軽減重力研究計画のために所有している航空機KC-135を使うことが一般的。

機内を無重力状態にするため、KC-135は離陸後に45度の角度で急上昇し、その後急降下します。

放物線の頂点を飛行している25秒間だけ機内が無重力状態に保たれています。

なお、機体の揺れや急激な加速によって吐き気をもよおしやすいために、NASAの無重力実験に使われる航空機は「嘔吐彗星(Vomit Comet)」とも呼ばれています。

しかし、「インセプション」では無重力空間を作り出すだけでなく……

空間を回転させて、登場人物に天井や床を走ってもらう必要がありました。

そこで使われたのが、イギリス・ベッドフォードシャーにある巨大な倉庫。

まず、SFXとプロダクションデザイナーたちと共同で、全長100フィート(約30メートル)のホテルの廊下を設計。映画「2001年宇宙の旅」の宇宙船内のシーンを参考にして回転式のセットを考え出したとのこと。

設計図をもとに作られた小さな紙の模型がコレ。

次に、直径30フィート(約9メートル)の鉄の輪を7個使って骨組みを作り……

それぞれの輪に55馬力のモーターが2個ずつ取り付けられました。

全てのモーターをコンピューターで制御することで、セット全体の回転速度や回転の向きを操作する仕組みです。

そして以下のような巨大セットが完成。

セットは完成したものの、撮影スタッフたちは「一体どこから照明を当てるのか?」という問題に阻まれます。四方が壁や天井に囲まれているため、スタジオでの撮影のように「上や横から照明を当てる」ことができません。

この問題を解決すべく、廊下の天井灯や壁掛け照明を改良して、廊下の装飾としての役割のみならず、撮影用のライトとしても使えるようにしたそうです。

さらに困難を極めたのが、撮影用のカメラの位置。

廊下の全景を撮影するため、カメラをクレーンにつり下げて……

セットの外からクレーンを伸ばしながら撮影を行ったそうです。

さらに、もう1台のカメラはセット内の床に設置して撮影していたのですが……

セットを傾けて床が下り坂のように傾いているシーンでは、カメラが床から滑り落ちてしまいます。

そのため、移動式の台座を廊下の真ん中に固定して撮影していたとのこと。

回転式セットを外から見たところ。

廊下全体がぐるぐると回っています。

こうして回転式のセットの完成後、撮影の2週間前からリハーサルが行われました。アーサー役のジョゼフ・ゴードン=レヴィットは、「映像を見ると壁から天井に向かって華麗にジャンプしているように見えますが、実際の撮影中は『床、壁、天井のうち地面と水平になっているのはどこか』を常に意識していました」と語っています。

ノーラン監督とスタント指導担当のトム・ストラザーズもセットに入って、ジョゼフ・ゴードン=レヴィットに演技を指導していたのですが、2人とも乗り物酔いになってしまったそうです。

廊下でのバトルシーンのクライマックスは、廊下を滑りながら客室のドアを蹴破って……

2人でもみ合ったまま客室に突入。

部屋の中でバトルを繰り広げます。

廊下は幅8フィート(約2.4メートル)だったのに対して、客室は横幅25フィート(約7.6メートル)と3倍以上も広く作られていたため、客室内のバトルシーンは危険を伴うものでした。

撮影前にはスタントマンによるテストが行われ、安全面での検証を実施。

その結果、部屋の端から端へ役者が移動するシーンではセットをゆっくりと傾けて落下の衝撃を抑え……

床から天井への短い距離を移動するシーンでは回転速度を速めて、迫力のあるバトルシーンの撮影に成功。

なお、この廊下のバトルシーンは、脚本上ではたったの1段落しかないのですが、撮影期間は合計3週間かかったそうです。

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